平成25年度業界振興論文・優秀賞

組合組織強化のために

佐々木大地(北海道組合)

 

 目次

 第一章
 組織とは

 第二章
 非組合員への取り組み

 第三章
 知らない人へ「伝える」ということ

 第四章
 まとめ

 

第一章 組織とは

 二十歳でこの業界の門をたたき、二十一歳で組合青年部の一員になった。
 ただ、通信教育生だった自分はまだ免許を持っていないにも関わらず、先輩理容師さんの後ろについて青年部の活動に参加してきた。
 そして、その活動を通し様々な経験や勉強をさせてもらい、それが大きな糧になり今の自分があると思っている。
 一つの行事を企画立案し組織的に対応処理するときの要領だとか、自分の考えを「提案」にして実行に持っていくまでの過程などを教えてもらった。もう少し大げさに言えば自分の人間形成に少なからず影響を与えてくれた青年部。
 しかし、その青年部とその大きな支えである組合が危機に立たされている。それは組合員の減少のためだ。
 組合員の減少と単純に書いたが、なかでも最も深刻なのは後継者不足の問題であり、それは即組合組織の弱体化につながる。後継者不足の問題についてはこれまで多くの方が書かれているので、私は私なりの組織強化策を述べてみたいと思う。
 今後、組合組織を強化していくに当たって一番重要なことは理事、青年部、女性部など組織を形成している各部会との連携ではないかと考える。
 例えば、私たちが何か行動を起こすには「他からの客観的な意見を聞きたい。一緒に実行したい。また、その後にどう思ったのか感想も聞きたい。次につながるアドバイスもほしい。あの事業は良い取り組みだったから次はこちらも参加させてもらって範囲を広げていこう」と考えたり実行に移したりする。このような普段からの関わり合いや連携無くして、組織をより強固に、より素晴らしいものにしていくことは不可能だと思う。
 組織とは本来、テーマや指針、目標に向かって個人がそれぞれ同じ方向を目指して船を漕いでいるようなもので、それは各自が向かう方向と目標を十分理解し、力を出し合って一つにまとまることで成り立つものだと思う。そしてこれこそが「連携」であり、それがなければ方向を見失ってしまうだけでなく、速い潮流に押し戻されてしまったり、船底に穴があいたり、さらには座礁してしまうものが出るなど、組織の強化どころか弱体化という惨憺たる道を辿ってしまう。
 そこで組織全体の意思の疎通を図り、組織をより強固なものにするために採られたある支部の取り組みについて紹介したい。

第二章 非組合員への取り組み

 さてその支部とは自分が所属しているところなのだが、組合理事と青年部が協力し、さまざまな組合強化策や後継者問題に関して意見を出し合い、実行しようとしている。そんな中、非組合員に組合の存在とその意義を意識付けするためにはどんなことをしたらいいのかが話し合われた。
 やはり、大事なことは相手に会うことであり、基本は店舗訪問にあると思う。全理連では、パンフレット“絆”を作成し、これを活用して組合員増強に役立ててほしいと各都道府県組合に配っているが「この“絆”は一体どの世代をターゲットにしているのだろうか?」という話になった。確かに読んでみると、組合がどんなことをしているのかはよく分かる。ただ、それは分かるということだけで組合に入りたいと思わせるような内容ではない。そんなことも理事と青年部員が集まって話せば分かってくるし、見えてくる。
 “絆”はいいパンフレットだが、このままでは物足りないと感じるのも事実。
 配ってはいるもののいまいち反応が悪いということで、“絆”に代わる支部用のものを新たに作ってみてはということになった。支部内各地区の代表に意見を聞かせてもらい、理事会の中でも話し合われた末、手前味噌かも知れないがとても素晴らしいものが出来上がった。これを全理連の“絆”と合わせてうまく活用すればより良いアプローチができるのではないかと参画者一同大満足。さっそく店舗訪問の際のツールとして活用している。
 さて、次は非組合員といっても、その前段階のこれから店主や理容師になろうとしている人へのアプローチも重要だ。現在、理容学校に通っている生徒たちはいったいどのくらい組合のことを知っているのだろうか。

第三章 知らない人へ「伝える」ということ

 支部で理事と青年部が話し合った折、組合に何が欠けているのか話をしてくれないかと青年部に要請があり、そのための会議がもたれた。
 前章でも触れた店舗訪問やパンフレットなどの話題を中心に会議が進められたが、その途中、青年部員の一人から「非組合員のことばかりが言われているが、養成学校の生徒たちはどれだけ組合のことを知っているのでしょうか。きっと知らないですよね。だってサロンの二代目でさえ組合のことを知らないのに養成校の生徒が知っているわけがない。店舗訪問も大切だが、いっそのこと生徒向けに授業をしてみてもいいのではありませんか」との発言があった。
 それはつまり、生徒として学校で学んでいる間に組合というものの意識付けを行い、その後、就職して独立となった時に組合に入ってもらう動機付けとなるような授業をやれないかとの提案であった。
 何人かの青年部員も以前からこんなことをやりたいと思っていたが、うっかり勝手な行動も出来ない。しかし、今回は理事から意見を求められてのことで願ってもない話。また、それは理事の側でも計画立案、実行とはならなかったものの、構想としては以前から考えられていたとのことで、この意見が発端となって思いもよらないスピードで事態は動き出した。
 昔は、独立開業するときは組合加入が絶対条件だった時代もあったという。また、周りの知人、友人たちが誘ってくれたりもしたという。だが時代の変遷とともに師弟関係も昔ほど濃密なものではなく、オーナーも従業員に対して組合加入を勧めたり、ことさら意識付けをすることもしなくなっている。それどころか組合からお願いをしていてさえさっぱり伝わっていない有様。
 では学校の授業として聞いていたならどうなっただろうか。自分に置き換えて考えてみると、もっと受け止め方も違っていたかもしれないと思う。後になって、そういえば授業で組合の話をしてくれた人がいたけれど、確かこんな話だったなと思い出してくれるだけでもいい。そんなことが組合に入るきっかけとなるかもしれない。それやこれや紆余曲折のあと、当時の支部青年部長だった自分が中心となって組合加入セミナーと銘打った講演授業の組み立てが始まった。
 十三世紀に今の山口県下関市で、藤原采女亮正之という人が武士の月代を剃ったのが日本における髪結業の始まりといわれ、理美容の始祖であり神様と言われる所謂であることを初めて知った。そしてそれからは、どんどん理容の歴史にはまり込んでいった。
 明治元年頃、四人の男たちによって西洋技術を用いた理容業が始まったこと。そして理容という仕事が広まっていったのは、断髪令が発布されたからだと知ったときは目から鱗が落ちた心境だった。
 今当たり前に仕事ができるのは、様々な問題が起こる中で先人たちが力を合わせ組合組織を作り、そして理容師法制定に動いてくれたおかげだった。正直なところ自分はこんなことも知らずに理容を業としていた。恥ずかしかった。日本の歴史は学校で勉強するのに、理容業の歴史はまったく学ぶ機会はなく勉強もしていなかったように思う。もしかしたら楽しかった実技の授業ばかりが記憶に残っていて、教科書にも載っていたかもしれないのに理容師法や理容の歴史はよく見ていなかった、そして覚えていなかっただけなのかもしれないが。
 今回は、まず二時間の授業の中で組合組織が形成されていった背景、歴史を伝えることに重きを置いた。
 組合ができてその存在があったからこそ理容師免許制度ができ、理容師法が制定され、さらに派生して今の学校制度につながったこと。
 ただ、それだけでは生徒の気持ちはつかめないので、理容師がいつから誕生したのか、日本が戦争状態にあったとき理容業界はどんなふうに対応したのか、というような裏話的要素も採り入れ、内容が一辺倒にならないように工夫した。
 さらには、話を聞くだけだとつまらなく感じたり眠気を誘うことにもなりかねないので、生徒自身が将来サロンを経営するにあたり、どんなサロンがいいのかそれぞれに考えてもらったりもした。生徒が理想とするサロンはとても面白く、カフェ併設や女性専用サロンなど様々なものがあり発想の豊かさに驚かされたが、ここではその詳細は省略させていただく。
 今後の参考となるよう、この授業を始める前と後に組合について生徒に感想文も書いてもらった。
 最初の組合のイメージは「知らない。堅苦しい。おじさんしかいない。怖い。何しているのかわからない。何のためにあるのかわからない。意味がない。立派な人が居そう。偉そうに何かやっていそう」こんなものだった。
 では、授業の後はどうなっただろう?
「組合があるおかげで免許制度や学校ができたことを初めて知りました。自分が就職するときは組合加盟サロンに入りたい。そして将来自分が独立してサロンを持つときは、組合に加盟して業界に貢献し歴史を創る一人になりたい」
 これは一人の生徒の意見だが、他のほとんどの生徒が同じように感じてくれていた。
 この結果を見て、知らないというのは怖いことだとつくづく感じた。知らなければ何もしなくて済むと思ってしまうし、今の自分の立場が当然のものだと思ってしまう。第一、「何がある」のかさえ分からない。
 ただ、自分たちが伝えていくことによって知らないことが無くなっていく。さらには自分で勉強してどんどん知っていくとさらに楽しくなって自分のやっていることに自信が湧いてくる。そんな相乗効果を期待しながらこのセミナーは続けていかなければならない。

第四章 まとめ

 この論文が読まれている頃には、学校での第二回セミナーも終わり、次回開催に向けて話し合いが行われているだろう。そして新たな組織強化策も出ているだろう。
 そんな中、自分には何ができるだろうか?さらにはどんなことを伝えていけるのだろうか?考えを巡らせてみたが、伝えていくことはただ一つという結論に至った。
 組合ができたことにより免許制度が、そして学校制度が創設されたこと。そこはしっかりと伝えていかなければならない。
 学生のうちから、そして社会に出ても「理容業」という仕事を選んだ以上、組合のおかげで自分たちの「今」があるということを認識してもらわなければいけない。
 そしてこれから発生し遭遇するだろうさまざまな問題に対しては、自分たちが先頭に立って解決していく。
 自分はまだ三十三歳。これからも組合員として、青年部員として、組合に携わっていくだろう。そして組合の歴史はこれからも続いていく。その歴史を若い世代である自分たち青年部員が積極的に伝えていくことに意味があると思っている。
 そしてこの流れが全国的に広がっていくよう、これからも努力し続けていくつもりだ。

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