令和2年度業界振興論文・最優秀賞

 

訪問理容の推進と認知度拡大策

原田 良太(兵庫県組合)

 

目次

第1章 はじめに
第2章 訪問理容を通じて感じたこと
 2-1 訪問理容の認知度の低さ
 2-2 送迎サービスの必要性
 2-3 感謝される仕事であること
第3章 現状の取り組みについて
 3-1 地元地域への折込チラシの配布
 3-2 居宅介護支援事業所へチラシ配付
第4章 今後の取り組みについて
 4-1 折込チラシの配布エリア拡大
 4-2 マスコットキャラクター「はらちゃん」による宣伝活動
第5章 おわりに
※別添資料

 

第1章 はじめに

 私は、祖父母の代から続く理髪店を継ぐことを決意しました。当店は、父親の代のときに一度改装してから25年以上が経過しています。とてもきれいな店とは言えません。修業から戻ってきた私は、店を改装すべきか悩みました。金銭的にも厳しい状況であったため当面はお金をかけずに出来ることから始めようと思いました。
 私は、理容業界に入ったときから興味があった、「訪問理容」をしたいと思いました。これから超高齢化社会を迎えるにあたり、必要とされる仕事になるのではないかと思いました。カット道具一式は揃っていますので、初期投資がほとんどかからないこともポイントであったように思います。父の知り合いに施設や自宅へ伺いカットをしている方がいましたので、その方と一緒に施設へ伺い実践的なことや、注意すべきことなどいろいろと教えてもらいました。その経験により、今では男性女性のカットに加えて、カラーやパーマも自宅で出来るようになりました。
 私自身が、訪問理容を通じて感じたこと、現状の取り組み、そして今後の取り組みについて具体的に述べていきたいと思います。

第2章 訪問理容を通じて感じたこと       

 2-1 訪問理容の知名度の低さ

 私たちが訪問でお客様の元へ伺ったときによく聞かれることがあります。それは、「訪問理容はいつからされているのですか?」です。理容業界では訪問理容について知らない方はいないと思います。しかし、一般のお客様は、知らない方が多くいます。自宅でカット等をする訪問理容の認知度の低さを感じました。
 私の地域は、要介護4、5の方には、カット代を補助するサービス「訪問理美容サービス利用券」がもらえます。その中に入っている事業者リストから電話し依頼をします。要介護1、2、3の方は対象外ですので、訪問理容について知らないことが多いです。重要なのは、要介護2、3の方です。個人差はありますが、要介護1の方は、比較的元気な方が多いように思います。要介護2、3の方は誰かのサポートなしには、歩けない方もたくさんいます。一人で外に出ることが難しい方が多いように思います。外出するときは、家族さんが来てくれているときに連れて行ってもらっていると聞きます。訪問理容のことを知り、もっと早く知っていれば良かったと言っていただけることがよくあります。訪問理容は、家族さんの負担の軽減にも繋がるのではないかと思い、もっと認知度アップに努めていきたいと感じました。

 2-2 送迎サービスの必要性

 私たちが訪問理容をしていく中で、家の中に入ってくることに抵抗がある方、家でカットして欲しくない方も少なくはないと感じました。そのような方たちに対して、私たちは、どのようなサービスをすれば利用してくれるのかを考えました。店に行きたいが一人では行けない。でも家でカットはして欲しくない方を、どのようにして利用してもらうかを考えました。みんなで話し合い、送迎サービスをするのはどうかという答えにたどり着きました。私たちが普段使用している車は、普通車であるため、車いすの方は送迎できません。お客様のご自宅から車、車からサロンまで歩ける方が対象となります。出来る限りサポートはさせていただきますが、私自身介護士ではありません。福祉理容の講習に参加したり、独学で勉強したりしましたが、プロではありません。実際何か起こったときにどこまで対応できるかが不安です。これからは、訪問理容をする上で介護の知識はセットで必要になってくると感じました。訪問介護理容師資格のような資格があれば、施術する私たちも、そしてお客様も安心して施術を受けることが出来るように思います。
 カラーやパーマを希望されるお客様には、送迎を勧めています。店は設備が揃っていますので時間も早くでき、身体的な負担も少なくて済みます。お客様に、送迎サービスがある旨を伝え、選んでいただくようにしています。選択肢の幅が増えることは良いことであると思いますので、いろいろな方向性で考えていきたいと思います。

 2-3 感謝される仕事であること

 訪問理容はとても感謝される仕事であると思いました。訪問理容を利用されるお客様は、高齢者の方が多いです。私ぐらいの年齢は、お孫さんと同じぐらいにあたるのか、とてもかわいがっていただけます。お客様から「いつも来てくれてありがとう」や「一人では外に行けないから助かっています」と言っていただけます。私自身、アルバイト、社会人時代も接客業で仕事をしてきましたが、理容業ほど感謝される仕事はないのではないかと思います。身をもってお客様から感謝を感じられる理容業という道へ入るきっかけをつくってくれた父母へ感謝しています。理容師であることに誇り持ち、日々精進していきたいと思います。

 

第3章 現状の取り組みについて

 3ー1 地元地域への折込チラシの配布

 私たちは、一人でも多くの方に知ってもらうことを目的に、地元を中心に折込チラシを配布しています。部数は、月に約1万5千部です。回収率が0.1%であり、月に新規のお客様が15名前後の依頼をいただきます。
 当店のチラシは、「見やすく・伝わりやすく」をモットーに作成しています(別添資料※1、2を参照)。高齢者の方でも見やすいように、文字の大きさ、配置には気を付けて作成しています。チラシは三つ折りの厚紙を使用しています。ペラペラの紙よりも長持ちで、折込チラシ以外の用途にも使用(施設等の受付などにも使用可能)できます。実際に配布した地域で反応がなかった地域がありました。その地域から、半年後くらいに依頼があり、自宅に伺うとテーブルの上に以前配布したチラシがあるということがありました。そのお客様から、「次は頼もうと思って置いていました」や「捨てるに捨てられない」という内容の話をよく耳にします。大切に取って置いてくれていたことに感動しました。チラシ作成もただ単に作るのではなく、こだわりを持って常に伝わりやすく、良いものを作成していくことが大切であると感じました。今後も改善すべき点は改善し、伝わりやすいチラシ作りをしていきます。

 3-2 居宅介護支援事業所へチラシ配付

 居宅介護支援事業所(以後居宅)とは、要介護1から5の認定を受けた方が最適な介護サービスを受けることができるようサポートしてくれるケアマネジャーさんが所属する場所です。
 居宅へ、訪問理容のチラシを持っていき、担当ケアマネジャーさんと直接話をさせてもらいました。直接話をすることによって、当店の取り組みがより伝わるのではないかと思いました。そのときに当店の強みをしっかりと伝えることを意識しました。

 当店の強み
  ・365日対応
  ・9時から22時まで営業
  ・パーマ、カラーの対応
  ・送迎サービスの実施

 当店では、他店との差別化を図り、興味を持っていただき、選ばれる店を目指しています。その積み重ねで、ケアマネジャーさんとの信頼関係が構築され、お客様の紹介に繋がっているのではないかと考えています。

 

第4章 今後の取り組みについて

 4-1 折込チラシの配布エリア拡大

 現在折込チラシは、地元エリアを中心に配布しています(当店より車で15分程度の範囲)。折込チラシのエリア拡大することによって、コストもかかってきます。何か良い方法はないかと調べました。すると、小規模事業者持続化補助金という制度がありました。現在申請中ですが、経費の3分の2(最大50万円)を助成してくれるという内容です。配布エリア拡大したいと思ってもお金がかかります。資金に余裕があるわけではありません。しかし、ないからと言って何もしないのであれば、前に進まないので、助けてもらうところは助けてもらい、事業を進めていくことが大切であると思いました。申請結果はまだですが、年4回応募できますので、受かるまでチャレンジしていこうと思います。受からなかった場合は、配布エリアを分けて何か月かで配布できるようにするなどの方法を考えていきたいと思います。
 訪問理容を一人でも多くの方に知ってもらい利用してもらうには、配布エリアを拡大する必要があると思いました。当店から30分程度の範囲で高齢化率が高いエリアに限定しようと思いました。当店がある地域の高齢化率を調べました(別添資料※5を参照)。すると、当店がある地域を含め、周辺地域も高齢化率が高いことがわかりました。C区、D区、A区は当店より25分圏内であり、高齢化率が30%以上と非常に高い数字になっています。高齢化率が高い地域は、訪問理容の需要も高いと思います。そのような方々に、訪問理容を知ってもらい、利用していただけたらと考えています。

4-2 マスコットキャラクター「はらちゃん」による宣伝活動

 当店のマスコットキャラクター「はらちゃん」を紹介したいと思います(別添資料※3、4を参照)。別添資料に、はらちゃんのイラストと写真を添付していますので、みていただけたらと思います。白いエプロン部分には、「訪問カット~」という感じで店名を入れたいと思います。地元の駅や商店街など人通りが多いところで、はらちゃんが通行人の方に手を振ったり、お辞儀したりします。その近くで、スタッフがチラシを配付するイメージです。スタッフだけでチラシを配付するのではなく、はらちゃんがいることによって、注目を集めインパクトを与えることができるのではないかと思います。それと同時にSNSでも発信し、不特定多数の方に知ってもらいたいと思います。はらちゃん活動は、毎日することによって効果を発揮すると思いますが、毎日活動する時間とスタッフ数の確保ができていないのが現状です。来年に向けてチームを作り活動を本格的にしていきたいと考えます。

 

第5章 おわりに

 私たちは、訪問理容を本気で推進していきたいと考えています。訪問理容を始めて一年半、いろいろな壁にぶつかりながら、もっとできることはないかと試行錯誤しながらチャレンジをしてきました。今後は、認知度を拡大していく活動を本格的にスタートしていきます。そして訪問理容を知った方が、当店を選んでいただけるように努力をしていきます。
 お客様やケアマネジャーさんから寄せられた意見を反映する。お客様へ伝わりやすいチラシ作りや発信方法についてレベルアップしていく。常に「良いサービスを提供すること」を念頭に置き、チャレンジし改善していきたいと考えています。当店の取り組みは道半ばでございます。皆様のご指導、ご鞭撻の程よろしくお願い申し上げます。

※別添資料

 

審査講評
審査委員長  岩田三代(ジャーナリスト)

 祖父母の代から続く理容店を継いだ筆者に渡されたのは、改装から25年がたち少々古ぼけた店。改装したいが資金はない。お金をかけずにできることはないか。悩んだ結果、思い立ったのがかねて関心のあった訪問理容サービスだ。父の友人に教えを請い、今ではカットに加えてカラーやパーマも自宅でできるようになった。そんな体験を通じて感じたことをまとめたのが、今回の論文だ。

 訪問理容を取り上げた論文はこれまでにもあった。テーマ自体は決して新しくない。だが、31歳の筆者の目を通してみると、認知度の低さや送迎サービスの必要性などさまざまな課題が見えてくる。それを大変わかりやすい文章で説得力をもって書いている。広報も現状は折り込みチラシだけだが、若い世代らしくマスコットキャラクターやSNSの活用も考えている。訪問介護理容師資格の提案なども興味深い。審査会では「今後さらに必要性が増すサービス」との声もあった。

 


 

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