令和4年度業界振興論文・最優秀賞

 

新しい理容店経営のあり方

長谷川翼(アリアーレビューティー専門学校)

 

◇◇◇ 目  次 ◇◇◇

1はじめに

2理容業界の現状

3理容業界における消費者動向

4多様化する理容師の働き方

5これからの理容業界に求められる付加価値

6新しい理髪店経営のあり方

7おわりに


1はじめに

新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、社会のあり方は大きく変化し、テレワークやフレックスタイム制などの多様な働き方が一般的となった。理容業界は労働集約型産業であり、働き方が変化しづらい職種といえるが、今後店舗を継続するにあたり新しい働き方の模索が求められる。私は現在4年制大学に通いながら理容学校に在籍しており、理容業界に関する知識・経験は十分ではないが、実家である明治32年から123年続く理髪店を継ぐために、理容業界の現状を考察した上で、新しい理容業界のあり方の提案を試みる。

2.理容業界の現状

近年、美容室の市場規模が緩やかな拡大傾向にある一方、理容師数は平成6年の252,705人をピークに減少を続け、令和2年度は210,849人まで減少し、理容所数も平成初期の144,000店舗以上から令和2年には過去最低の115,456店舗に減少している。新規の理容師免許取得者も令和2年度で1,511人と、新規美容師免許取得者数17,181人の10分の1以下である。

また、平成27年度に厚生労働省が行った生活衛生関係営業経営実態調査によると平日の1施設当たりの1日平均客数は5.8人で、10人以下が全体の8割を超えており、休日は平均で8.6人、10人以下は約6割である。1人当たりの単価は3,000~3,999円が53.7%と1番高く、平均利用料金は3,545.4円である。売上高は、平成27年度の個人経営での1施設当たりの平均で5,036,000円、令和2年度は新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり4,713,000円まで減少している。一方で、コロナ渦においても売り上げを伸ばしている店舗もある。

さらに、理容組合が組合員5,000名を対象に行った令和3年度理容業経営実態調査では、個人経営の店舗が約95%を占め、中でも家族以外の雇用をしていない店舗が全体の75%という小規模店舗が大半を占めている(図2-1参照)。さらに、経営者の年齢は60代以上が約7割で、平均値が66.8歳と、高齢化が深刻であり(図2-2参照)、後継者がいると回答した組合員はわずか27.8%(図2-3参照)、さらに現時点で廃業予定の理髪店経営者が18%であり、20~30年後理容業界が存続の危機に陥る懸念が高い。そこで、理容業界を若年層にとって将来性のある、魅力的な業界への変革が必要である。

3.理容業界における消費者動向

消費者動向をみると、男性の約30%がクイックカットサービス店、20、30代の若年層の約半数が美容室に通っている。既存の総合調髪がメインの理髪店から10分1,000円台の低価格でカットのみを提供するクイックカットサービスの登場により価格の2極化が進みつつある。一方、インターネット調査の「美容室(理容室)でカット以外にやってみたい施術を全て教えてください」に対し、「シェービング」の回答が男女ともに20%程度で、需要が見込める(図3-1参照)。近年はシェービングメニューの提供のために美容師が理容師免許を取得するダブルライセンスが広がっており、累計で約1万2,000人が両資格を取得している。私の通う理容学校でも同学年約40人のうち現美容師が4名在籍しており、美容業界におけるシェービングの需要の高さが伺え、美容室に通う男性客や女性に対するシェービングメニューの周知・集客により美容室との明確な差別化が図れる。

また、若年層に関しては、インターネットや店舗のHP・SNS、Googleマップなどから利用店舗を決める傾向が高く、高齢化が進む理容業界でも自店のHPやSNSサイトの整備が求められる。

4.多様化する理容師の働き方

 近年、会社・店舗に所属する働き方からフリーランス・業務委託などの時間的制約の少ない働き方が増加傾向にある。店舗の空席や空いた時間に他の理美容師へ座席を貸す「面貸し」や、全ての席がシェア用として確保してありセット面や設備を貸し出す「シェアサロン」なども広がり、シェアサロン最大手の「GO TODAY SHAiRE SALON」は2020年に10億円の資金調達を完了し、市場拡大が予想される。フリーランス・業務委託のメリットは、勤務後の練習や人間関係を気にせず、出勤日を自由に決められ、長期休暇や家族との時間を確保できる点である。フリーランスの場合、最初から最後まで1人で担当し、顧客との信頼関係が構築しやすい利点もある一方、収入の安定性や集客が課題となる。店舗に所属していると安定して給料が入るが、フリーランスでは売り上げが直接収入となるため、InstagramやYouTubeなどのSNSでのファンの獲得が重要である。

 また、高齢化の進行によって「出張・訪問理容サービス」も増加傾向にある。理容師法では理容所以外での施術は禁止されているが、疾病その他の理由により、理容所・美容所へ来店できない場合は出張・訪問による理容サービスの提供が認められている。高齢者や病気の方だけでなく、介護をする家族へもサービス提供が可能であり、新たなサービスとして注目されている。株式会社リクルートライフスタイルの訪問理美容サービスの利用実態調査では、訪問理美容の認知度は2015年の55.0%から2020年は81.6%へ(図4-1参照)、利用経験率は18.0%から32.0%へ増加している(図4-2参照)。特に、個人宅への訪問に関して料金の一定額は市町村から補助があり、訪問理容の満足度は全体の85%が「満足」と回答していることからも、今後訪問理美容の需要は高まると予想される。

 ただし、個人宅への訪問サービスは効率性を高める必要があり、例えばマイクロバスなどの大型車で5~10人程度の高齢者を送迎し、店舗で施術することにより、一度に施術する人数も増えると同時に高齢者同士のコミュニケーションの場となりうる。

施設への出張は収益性が高く、一回で多くの売り上げを確保でき、会社・店舗で施設と提携して定期的に訪問施術を行うケースや全国展開している訪問理美容サービスのFC店舗による受注が可能である。

私の実家でも現在月に5件ほど訪問理容の依頼へ対応しており、移動手段が乏しく店舗まで足を運ぶのが難しい高齢者に喜んでいただく訪問理容のサービス提供が求められる。

5.これからの理容業界に求められる付加価値

現在、理美容業界では店舗数が30万軒を超える中、「週間エコノミスト」2015年号には理美容師がAIによって代替可能な職業と挙げられており、単に「髪を切る」「髪を染める」のサービス提供のみではなく、付加価値向上が求められる。

第一に理容師の技術力向上である。現在も店舗、理容組合、その他外部セミナーや研修で技術向上を図る理容師は多いが、カットやシェービングのみならず、エステやヘッドスパ、マッサージやまつ毛ケアなど幅広い知識・技術が求められる。ヘアカラリスト検定、福祉美容師資格認定などの理美容に関連した多数ある資格取得もスキルアップにつながる。私の実家でもエステやヘッドスパ、一昨年には美容脱毛器を導入しメニューを多様化して幅広いお客様のニーズに応えるための取り組みを行っている。

さらに、理容師は高い技術力に加え、コミュニケーション能力や人間的な魅力が重要である。リピート率向上には接客の質を上げると同時に、他の業界の知識・動向の情報収集、読書により見聞を広め、スタイリストとの会話や居心地のよい空間づくりが、機械にはできない付加価値と考える。

6.新しい理髪店経営のあり方

私は新しい理髪店経営のあり方として、営業日を週3~4日に減らし、理髪店の経営と並行して他業種への進出を提案する。先述のとおり、理髪店の平日の1日平均客数は5.8人であり、相対的に生産性が低く、理美容業界は免許と技術があれば年を重ねても働ける職業とはいえ、立ち仕事で体への負担も多く、年金受給額の少ない個人事業主は経済的に不安定になる可能性が高い。そこで、営業日を減らし質の高い顧客に集中してサービスを提供し、客単価を上げ、売上を維持しながら生産性を高めるかつ、営業日以外は別事業を行うことで収入の安定を図る挑戦をしたいと考える。

複業美容師.comというサイトでは、自分のアイデアで収入源を増やす働き方をする美容師を「複業美容師」と呼称し、サロンでの技術売上以外の方法で収入を得ている理美容師を事例として紹介している。その中では、夜はバーテンダーとして働く理容師や、理髪店の店舗経営をしながら結婚相談所の紹介、薄毛治療病院の紹介、卓球の先生をする理容師が取り上げられている。働き方改革により、民間企業では副業・兼業の導入が始まる中、「理容師」は職人の世界で、修行を経て独立し、技術を磨いて一生理容師として働くという考え方から、「理容師」を職業の一つの選択肢として捉えることも必要と考える。

また、後継者のいない理髪店に対する事業継承・事業譲渡の実行支援モデルを提示することが求められる。私の母方の祖父母も後継者がおらず、高齢のため理髪店の営業が困難であったが、常連客のために閉店できず約1年が経過した頃、実家の元従業員が店を引き継ぎ、現在も営業している。経営者は店舗の家賃による安定した収入を確保でき、引き継ぐ理容師は顧客を抱えた状態で営業を開始できる。今後20~30年の間に既存店舗の経営者の引退が予想されるため、若い理容師が後継者となり、散髪だけでなく情報交換や交流の場の機能も備えてきた理髪店の良さを継承しつつ新しい挑戦を行うことが、地域コミュニティの維持にもつながるであろう。

最近では理髪店と併設してカフェやバーを経営している店舗もあり、業界自体が大きく変わりつつある中、これから経営者になる我々20代、30代の若手が理容師としての技術を研鑽しつつ他業種からの学びや経営の知識を深め、新しい働き方の導入により理容業界が発展していくことが期待している。

7.おわりに

スマートフォンの普及やインターネット環境の整備が進み、ブロックチェーンの発達によってNFTやメタバースの世界が生まれ、人々の働き方も大きく変化した。しかし、理容業界は西洋散髪の技術が伝来した明治時代から労働集約型産業である。「経営」という言葉は、「経」あり方、軸となる変えてはいけないもの、「営」やり方、時代に合わせて変化していくものという縦横の関係で成り立っており、今後、時代の著しい変化の中で理容業界が発展していくためには、よい慣習やサービスを維持しつつも、少しずつでも新しいことに挑戦する理容師を目指していきたい。

 

図2-1店の雇用従業者数(家族を除く)(n=1829)

図2-2店の組合員の年齢(n=1817)

図2-3後継者の有無(n=1829)

資料:理容統計年報第55集

図3-1 美容室(理容室)でカット以外に求める施術(n=1,000)

資料:株式会社ROI 美容室(理容室)の利用状況に関する意識調査

図4-1訪問理美容の認知度(n=1,938) 図4-2訪問理美容利用率(n=1,938) 

資料:株式会社リクルートライフスタイル

要支援者・要介護者に対する訪問理美容サービスの利用実態調査

 

出典

・全国理容生活衛生同業組合

理容統計年報第55集 令和3年11月調査

・令和3年度理容業経営実態調査

・平成27年度生活衛生関係営業経営実態調査報告 理容業

・厚生労働省 生活衛生関係営業の生産性向上を図るためのガイドライン・マニュアル

収益力の向上に向けた取組みのヒント理容業偏 発行日平成31年度3月

・消費者参加型覆面調査・ミステリーショッパーサービス「ファンくる」を運営する株式会社ROI美容室(理容室)の利用状況に関する意識調査(有効回答数1,000名)

https://www.fancrew.jp/

株式会社リクルートライフスタイル

要支援者・要介護者に対する訪問理美容サービスの利用実態調査

※図4-2 2015、2018は「利用している」と回答した人の割合

2019、2020は【利用したことがある】直近1年以内に利用したことがある

+利用したことはあるが、直近1年以内は利用していない

 

・楽天インサイト株式会社 最近3年以内に理容室・美容室・クイックカットサービス店の利用経験があると回答した20~60代の男女(2,446サンプル)のうち、男性の回答者(1,386サンプル)へのインターネット調査

・副業美容師.com

https://fukugyoubiyoushi.com/

・人工知能と経済の未来2030年雇用大崩壊 井上 智洋著

出版者:文藝春秋 出版日:2016/7/29

 

審査講評
審査委員長  岩田三代(ジャーナリスト)

 この論文は審査委員8人中6人が1位に推すという圧倒的高評価で、まさにぶっちぎりの最優秀賞だった。「論文としての完成度が抜群」「発想が斬新」「時代に合った振興策だ」などの意見が相次ぎ、長年審査を担当している委員からは「これまで読んだ中でベストではないか」との声まで出た。
 筆者は4年制大学に通いながら理容学校に在籍する学生。明治32年から123年間続く理容店を継ぐというだけに覚悟が感じられる。データで現状を冷静に分析して課題をえぐりだし、若者にとって将来性のある魅力的な業界になるための変革を考えている。
 提言の柱となっているのが理容店としての営業日を週3~4日に減らして他業種への進出を図り、店としての生産性をあげようというものだ。美容師とバーテンダーを兼ねる「複業美容師」やカフェ、バーを併設する例なども紹介して説得力を持たせている。さらに後継者のいない理容店を元従業員など第三者が引き継ぐ道を作ろうとの提案は、高齢化の進む業界にとって有用な方向だろう。こうした若者らしい大胆な発想が、業界の活性化につながることを期待したい。


 

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