令和4年度業界振興論文・奨励賞

 

新たなる理容師の学び習慣 オンライン個人指導

狐塚 均(埼玉県組合)

 

◇◇◇ 目  次 ◇◇◇

【はじめに】

 人として揺るぎない日常へ

 【本論】

 1,オンライン個人指導の効用

 2,システムの実際

 3,課題と対処

 【おわりに】

 And for all consumers ...


【はじめに】

人として揺(ゆ)るぎない日常へ

 新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)は、多くの個人と組織に少なからずの悪しき影響を与えた。人々は、これまで培(つちか)ってきた良き習慣からの変化を強(し)いられることとなった。社会を悉(ことごと)く食い荒らしている新型コロナウイルス(以下・コロナ)とは、一体何者なのであろう。どこまで人間を苦しめれば気が済むのであろうか。世界中の人々が、もうこの現状に辟易(へきえき)していることと思う。

 しかし多くの人々は夢や希望までもコロナに奪(うば)われてはいない。コロナに打ち勝ち人として揺るぎない日常を取り戻すことを、主眼としているのではないだろうか。そんな状況の中で、医学的なことは専門家に任(まか)すしかないが「今この現状を打破(だは)するために誰もが出来ることがある」と私は思っている。それは「一人ひとりが持っているプラス要因を出し合うことである」それらの集合体で、如何(いか)なる障害も乗り越えることが出来る。

 そんな想いを持ち続けている内、私は理容師として、また一理容組合員として何が出来るのか、何をすべきなのかを考えた。そして私のこれまでの経験や拙(つたな)い知識を見直したところ、ある一つの対策が思い浮かんだ。それは「理容組合によるオンライン個人指導システム」の全理連への提案である。この仕組みは今の社会状況を考えるにあたり、正に必要性が高まっていると言える。故(ゆえ)に組合として早急に取り組んだ方が良い策(さく)であると、私は切実に感じている。本論は、その具体的な内容と進め方の要点を述べるものである。

 

【本論】

1,オンライン個人指導の効用

1.理容組合での教育の現状

 全理連に於ける理容師への教育活動は、これまで理容業界の発展に多大な影響を及ぼし、理容師の成長と組合員サロンに於ける顧客満足度などを高めて来た。「教育なくして発展はない」それは今後も永久に変わることない原則である。

 しかしコロナ禍の現在、技術講習会などの催しは激減している。昨今では経済との両立ということで、世の中的には様々な催し物が少しづつ行われているが、理容業界の講習会などに至っては、まだまだ少なくコロナ前とは全く比べ物にならない状況である。

 ただこれから重要視すべきは、コロナ前に戻すというものではなく、現状を踏まえての新たな仕組みを作って行くことにある。そこには本提案であるオンライン個人指導(以下・オン個指(こし))のようなものが必須(ひっす)である。その中で本提案は、変革の象徴となりうるものであると私は考えている。

 

2.オン個指の概要(がいよう)とメリット

 オン個指とは、オンラインを使った1対1の個人的な指導の仕組みである。つまり講習会に出向く訳ではなく、多くの人数で受講する訳でもない。このように個人に沿った内容の指導は、一人ひとりの負の隙間(すきま)を埋(う)めていくようなものである。それは、これまでにない習慣であるが今後の理容師のスキルアップや、組合員サロンと理容業界の発展のために絶大な期待が高まるものと思う。

 これを実施することでの具体的メリットは、次のようなものである。

①個人的な問題の解決が出来る
 全くの個人指導なので、自分自身の狭い範囲での問題の解決が可能となる。

②接点のない講師に気軽に依頼が出来る
 普段直接連絡が取れないような講師に対して、容易に依頼をすることが可能となる。

③時間的な負担が軽減される
 居住地域に関係なく仕事が終わった後など短い時間を活用しての受講が出来るため、講習会に出向くようなケースと比べれば遥かに時間の節約になる。

④安価である
 システム上、講師への負担も少ないことから謝礼の設定も軽減され、また自宅での受講ということで出向くための交通費も掛からず受講に対し金銭的費用が抑(おさ)えられる。

⑤講師としての活動の増加
 講師側も短い時間での指導が可能となるためコロナ禍の状況でも、自らの持つ能力を理容師の成長や業界の発展のために活かすことが出来る。またこれが盛んに行われれば講師としての指導の機会もこれまで以上に増え、やりがいにも繋がるものと思う。

2,システムの実際

1.軽便(けいべん)性

 スマホやインターネットが多く使われる現代ではあるが、オン個指のシステムを普及させるためには、誰でも簡単に出来るものでなくてはならない。難(むずか)しくて取り組めないようなものでは意味がない。パソコンなど苦手な人であっても、手持ちのもので簡単に出来ることが大切である。

2.備品

近年Wi-Fiの環境は、多くの家庭で備わっているため、オン個指として最低限必要なものはスマホ1台だけである。スマホ本体とアプリの機能、またSNSの進化の効果でそれが可能となった。

もちろんあると便利な備品としてはいくつかあるが、増やしたとしてもスマホが合計2台、またパソコンがあれば十分である。

3.仕組み

①指導者側の名簿

先ずは、オン個指の指導が出来る講師の名簿を作製し、組合のホームページなどに資料1のような表を掲載する必要がある。ここでの指導者は、システムの趣旨を理解し、承諾(しょうだく)をした者がこれにあたる。立場としては、全理連中央講師・各県組合講師などである。

資料1

②受講の流れ

受講を希望する者は、指導者名簿内の希望する指導者にメールなどで直接連絡を取り、オン個指である旨(むね)を告げ、内容・日程・時間を決める。その場合時間は30分間を1クールとし、これを基本の指導時間とするが、必要であれば連続して2クールなど複数の単元も可能である。(資料2参照)

資料2

その際指導者は条件面などで伝達事項があれば受講者に伝える。指導の実施が決まったら受講者は指導者に、ペイペイなどのスマホ電子決済(資料3参照)で所定の費用を支払う。この支払方法は送金費用が掛からないシステムであるが、便宜(べんぎ)性を考慮し、受講者・指導者共にこの送金制度が出来ることが望ましい。

資料3

③必要に応じた動画の事前提出

 指導者との打ち合わせで、必要により指導者側から事前に自身の該当(がいとう)する技術動画をSNS経由での提出を求める場合もある。これはスポーツなどのオンライン指導でも使われていると聞くが、効果的な指導を行うための手段である。なお動画のSNSでの提出が不可能な場合は、講師との打ち合わせの上、DVDなどに録画したものでも構わない。

 

4.指導内容の例

資料4

①    ヘアカット

掬い刈・連続刈・固定刈・指間刈等各1技法のチェック、鋏の開閉、スライスの分け取り方など

②    パーマ・カラー

ヘアアイロンの持ち方、アイロンの根本矯正の仕方、パーマのゴムの掛け方など

③    ヘアスタイリング

ヘアブラシでの毛髪の起こし方、ヘアアイロンでの外跳ね法、ワックスの塗布法など

④    快感技術

顔面仕上げでのスチームタオルでの拭き方、乳液の塗布法、乳液のマッサージ、基本のヘッドマッサージなど

⑤    シェービング関連

レーザーの持ち方、添え手の方法、ラザーリングなど

⑥    各質問

ニューヘアや他の全ての技術や理論に関して、時間内で出来る質問など

システムの性質上、指導の内容が不可能な場合も当然あるが「指導者が受講者の技術を見て、気付いたことを指摘する」というのが基本的な形である。これは今までオンラインでは難しいとされていた分野である。しかし今後オン個指が活用され出すと実際の指導の内容は、幅広く出来るようになることが予想される。差し当たり実行が可能なものとしては資料4の内容が考えられる。但し全て時間内で出来るものであることが鉄則である。

 

5.技術研究会での検証結果

私はオン個指の実際を、所属する技術研究会内の部会に於いて提案をし、検証を重ねて来た。部会のみでの実証実験ではあるが、結果は受講者側・指導者側共に期待以上のものを見出すことが出来た。当初オンラインでの指導など無理があるのではないかと不安もあったが、ここでの検証結果からも今後オン個指が様々な内容に活用出来るものであることに確信を得た。

 

3,課題と対処

1.受講に関して

①手順のマニュアル

 受講の権利は、組合員及びそのスタッフにある。オン個指を実施するためには、有権者が活用する際の手順をまとめたマニュアルが必要である。しかもそのマニュアルは、簡単に理解出来るものが良い。見易いマニュアルが手元にあれば、スムーズな対応が出来るようになり、また活用しようとする切っ掛けにもなる。

 

2.講師に関して

①講師の登録制

 オン個指の指導者は前述の通り、全理連中央講師・各県組合の講師などである。しかし当然のことながら講師といっても強制参加ではない。あくまでもシステムの条件を、受け入れた場合に限る。なぜなら、ここは重要なことであるが、自ら苦労して得た技術や知識を簡単に他人に伝えるのを拒むのも、技術者として尊い考えの一つだからである。これは本提案内容の逆説的のようでもあるが、講師として登録をしないことに関しては、全く問題ないものと私は考えている。

②指導料について

 指導料の額の設定は難しいところではあるが、基本的には一律性を用いると良い(例えば1クール2500円など)。但し指導者の希望であれば、それ以上の個々の価格設定の実行も可能とし、その場合上限は定めないことが望ましい。つまり定額を超す場合を設けることで、講師は自らの基準以下の指導は受けないで済む。また受講者側も指導料が明確であれば、指導の依頼を決めるにあたり選び易い基準を得ることになる。

 

3.全体

①全理連メリット

 それぞれの組合員のメリットは組織の性質上、そのまま全理連としてのメリットとも言えるが、更に付け加えればオン個指実施の事例毎に手数料が全理連に入る仕組みが理想である。手数料といっても少額であるため、そこに送料が掛かってしまっては意味がない。そこで受講料の支払い同様、送料の掛からないスマホ間での送金が良い。

 手数料の支払い制度の開始時期はスタート時からでなくても、オン個指の進行状況を見てからでも良いと思う。支払いの具体例としては指導者が、指導終了後に指導料の5%程度を送金するといった形が妥当と考えられる。

②今後発生する問題点

何でもそうであるが、このシステムも実施をしていくと必ず問題点が出てくる。しかしそれで良い。始めるから欠点が現れ、欠点を知るからこそ対処の仕方が解り、その都度問題解決を行いシステムが進化していくものである。

 また今後コロナの状況と共に社会情勢も変化していく。更にこれからやってくるSNSやスマホの劇的な進歩は、想像すらも出来ないと言える。変化に合わせた対応は永遠の課題である。

 

【おわりに】

 And for all consumers...

私自身サロンワークに於いて疑問に思うことや、技術面で解決をしたい点など沢山ある。しかしその機会を逸(いっ)し、ずるずると何年も過ごしている。そんな些細(ささい)な問題点を溜(た)めていることが多く、成果を挙(あ)げるための妨げになっている。「成長とは小さな問題解決の積み重ね」なのではないだろうか。正にオン個指が出来たら私は、すぐにでも活用し続けたいぐらいである。

このシステムの切っ掛けは、コロナからの悪影響の脱却であったが、コロナの蔓延はいつか必ず終わる。オン個指というのは、コロナ禍での対策として良い方法でもあるが、むしろその先にこそ活用の価値がある。技術やノウハウの伝え方として、講師が現地に出向く講習会の形は今後も常套(じょうとう)手段であると言える。またオンラインに於いては、多人数の受講者向けのものも増々使われていくことであろう。それらに加えオン個指のようなピンポイントで気軽に実施出来る指導は、この先永遠に活用される効果的なシステムであると強く思っている。対面で行う技術の指導と、オンラインで行う様々な指導法を旨(うま)く使い分け効果の上がる教育活動が可能となれば、理容業界は今後も大きく発展するに違いない。

オン個指という“新たなる理容師の学び習慣”を全理連・組合講師、そして我々組合員の力で盛り上げ、理容が時代に即した明るい業界になることを私は望んで止まない。

今現役の真っ只中にいる理容師と、これからの業界づくりに携(たずさ)わる若き理容師のために・・・。

そして理容を愛して下さる、全ての消費者のために・・・。

And for all consumer


 

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