店舗改装の意義を考える  菅沼穂孝(全理連中央講師)

 街の中にある色々な業種の店舗を散策してみてください。ハッと目を引く店舗がありませんか。目を引く店構え、そこで既に優劣がついてしまっているのです。下のサロンの写真を見てください。
残念なことに、私たちの業界にはこういったサロンがまだまだ残っています。この店構えで「技術の優秀さ、心を込めたサービス、衛生面」をいくらうたっても、この前を通行する人はどのような判断を下すでしょうか。「汚いな、暗いな、古いな、ここには入りたくないな」と思われるのではないでしょうか。

 どんなに消毒をきちんとしていても、この外観からはそれをうかがい知ることはできません。最悪の場合、このサロンから出てきたお客さまが知人に出会われ、「あなたはこの店でカットしているの?衛生的なの?」と言われてしまったとしたら、その方に再び来店していただけるのでしょうか。

 一方、外観のとてもおしゃれなサロンの場合はどうでしょうか。お客さまは自慢げに、「ここは私の行きつけのサロンだよ。どう?オシャレでしょう。あなたも一度来てみれば?」とPRまでしてくれるでしょうし、衛生面についても疑いを持たれることはないでしょう。

理容業界には依然としてこういった外装の店舗が見られる

 よく商売の基本は「掃除」と言われます。これは、「毎日お客さまを快くお迎えする」「気持ち良く利用していただく」「どうぞおいでください」という店主の心構えを無言でお客さまに伝える方法だと考えられているからではないでしょうか。「掃除もできないようでは何をしても伝わりませんよ」という戒めの言葉でもあるのです。


商売の基本「掃除」ができていないと、
お客さまになにもアピールできない
 毎日お客さまをお迎えするサロンの入り口(外観)が掃除しても追いつかない状態であったら、そこのサロンは、「当店はこれでも良いと思われる方だけ来てください」「古くてごちゃごちゃしていますけれど、我慢してください」と無言で伝えているようなものです。そのように、お客さまに解釈されてしまっているのです。

 サロンの外装を美しく、衛生的にすることは、来店してくださっているお客さまや、サロンの前を通行する人々に、店主の仕事に対しての思い入れを無言で語っているようなものなのです。

幼児の声は天の声


 去る2月22日、私の店舗は12年ぶりにリニューアルオープンしました。
改装に踏み切ったきっかけは、あるとき父親に連れられてやってきた幼稚園児くらいの女の子の一言でした。その女の子は、客待ちの椅子に腰掛けさせようとした父親に対し、「座りたくない」としきりに言っていたのです。その理由は、客待ちの椅子にシミがついていて「汚いから嫌だ」というものでした。

 毎日欠かさず掃除をしていても12年も経てば、落ちないシミもつきます。しかし、これが掃除では追いつかない「おもてなしの欠陥」なのです。そこで、改めて店内を新築したばかりの頃の写真を片手に(これが肝要)、店舗の内装と外装を見回してみたところ、知らず知らずの間に、"古い・汚い・暗い・ごちゃごちゃ"が目につきました。

 周りの仲間は「まだキレイだ」と言いますが、天井の照明器具周りのスス汚れ、床の塗装はがれ、棚に付着したヘアダイ、水回りの木材の腐食、棚には使用しないものが山積み、挙句の果てには、外装が時代遅れになってしまっていました。

 「色々な対策を講じているのに、売り上げが頭打ち状態に陥り、私自身、仕事にマンネリ感を持っていたのでは」と受けとめ、心機一転、改装を決意したという訳です。


改装前のカットブース

改装した菅沼講師店のカットブース

店創提案を考える中で

 「理容展望3月号」で掲載された「福井・理容総研セミナー誌上再現」において、3つの改装例が紹介されています。この改装例を作成する段階で、私を含め、それに携わったスタッフから出てきた色々な考えを紹介していきたいと思います。

"ヤング・オシャレ志向サロン"について

 一般的に、お客さまはこの種のサロンを美容志向と認識されているように感じるが、この点について若者は「理容店であろうが美容店であろうが関係なく、キレイな店舗、オシャレな店舗はすべて美容室と呼び、古い店舗、汚い店舗はすべて理容室」と判断しているようだ。

 私たち理容店経営者としてはとても悔しいことだが、このことから"ヤング・オシャレ志向サロン"は理容・美容の垣根を越えたヘアサロンにするべきだろうと思う。その実現のために、次のような様々な意見が出されている。

 「サインポールは必要なのか」「前流しはオシャレに見えるか」「日々変化するファッションを提供するためにカウンセリングをする場所と設備が必要だろう」「流行のカラーなどについても、その優秀性をPRするためにお客さまから見える場所にカラーストッカーなどを設置した方がいい」「店内は明るく、躍動感ある内装が望ましいのではないか」

ヤング・オシャレ志向サロン(イメージCG)

"ハイクオリティー志向サロン"について

 全体に重厚な雰囲気が必要だろう。間接照明を使い、落ち着いた雰囲気を演出する。客待ちにはマッサージチェアを置き、施術前後にリフレッシュしていただく。そして本物志向の「匠」の技を提供し、高めの料金設定が可能となるのではないか。

"テイスト志向サロン"について

 共通の趣味のもとに人が集まるのだから、店主、施術中のお客さま、客待ちにいるお客さまや遊びに来られた方々がお互いに会話でき、店舗の中が集会場的な雰囲気になるような配置が理想的だろう。

ハイクオリティー志向サロン(イメージCG)

 趣味の内容は、たとえば釣りであれば魚拓や道具を飾り、自慢の釣り談義を交わし、たくさん釣れたときには魚パーティーなどを開くのも面白い。

 ゴルフが趣味ならば客待ちにパターの練習用具を置いて、何らかのパターゲームを企画しても面白いだろう。奥さまがお花や造花、ドライフラワーなどの趣味をお持ちであれば、展示販売をしても面白い。副収入も見込めるかもしれない。

 陶芸、車、切手収集、石、盆栽、書道、スポーツなど、何でも考え方一つで色々なイベントができる。

テイスト志向サロン(イメージCG)

告訴社会になってきた

 これからの日本は、アメリカのような告訴社会になっていく兆しがあります。些細なミスが店舗の存続を揺るがす大事件に発展しかねません。

 そんな中、今、理容業界で危惧されていることは"消毒"です。もちろん、皆さんは消毒を適切に行っていると思いますが、皆さんの店舗に来店してくださっているお客さま全員(新規客も含めて)にそのことを認識していただいていますか。

 もし、「理容店で肝炎やエイズをうつされた」などと告訴されたらどのような事態になるのでしょう。事実がそうじゃないとしても、そういった悪い噂が客足を止めてしまうのは確実です。

 さらに、もし実際に何らかのウィルスを感染させてしまったとしたら、BSE(狂牛病)騒動のときのように、社会全体を巻き込む大騒動になるでしょう。

 今、美容業界にシェービングを行おうとする動きがありますが、消毒に関する認識の浅い美容室で事故があった場合、理容業界にいる皆さんはその余波をどう防ぎますか。

 だからこそ、是非実行してください、お客さまの目の前での消毒を。目の前で消毒することは、これから使用する器具は安全だということをお客さまご自身に確認していただくことになります。

 これにより、感染ルートが不明で何らかの感染症に侵された方に、理容店を告訴する理由がなくなります。また、組合員店全店が"見せる消毒"を実行していれば、たとえ他業種でこのような事故が起きたとしても、理容業界にそのマイナスイメージが波及することなく、かえって「衛生管理の徹底した理容店なら安全だ」というイメージアップにもつながります。

消毒済みの布類。"見せる消毒"が
理容業のイメージアップにつながる
(菅沼講師店)


半個室に設置されたレディス
シェービング用の椅子。
衛生面と同時に女性に対する
配慮も求められる
(菅沼講師店)


整然と収納されている消毒器材
(菅沼講師店)

店舗改装が理容業のイメージを変える日

 新しい店舗で仕事をすると実に気持ち良く、楽しく仕事ができ、お客さまに対してもとても誇らしく接することができます。

 売り上げが年々下がる中、「なぜ改装なのか」という声も聞きますが、このまま何もせずにいれば、ジリ貧になってしまうのではないでしょうか。改装は投資額も大きく危険も伴いますが、反面、成功したときの売り上げ増も大きいものです。

 皆さんの店舗がどんどんキレイになり、いつの間にか消費者に「理容業界って変わったね、なんかオシャレな店が増えたみたいだね」と言われるようになりたいものです。



サロンとしての構成要素をひとつひとつ見直し、お客さまを快くお迎えする環境づくりをめざした菅沼講師店の内装