平成23年度業界振興論文・最優秀賞

組合の必要性及び有効利用と価値観
《時代の変化に対応した組織作り》

糸田泰典(和歌山県組合)

 

 目次

【序論】  
今の組合を築いてこられた組合員の強固な力と組織力について

【本論】
今までの組合活動により構築された実績を生かし、今後の急を要する行政との連携による組合活動への転換と新な事業展開について

【結論】
今後の急速な時代の変化に対応した急を要する組合運営と組織(組合)の必要性の再確認について

 

 

【序論】

 平成23年3月11日に「東日本大震災」による、未曾有の震災により被災された方々に対し心よりお見舞い申し上げ、一日も早く復興され震災前のような生活に戻れることを心よりお祈り申し上げます。
 また、この被災地において我々業界の復興にあたり、ご尽力頂いておられる多くの方々に感謝申し上げます。
 この先長い道のりになろうとも皆で協力して復興への支援を怠らず、また、出口の見えない不況の波を打破すべく、今までとは違う方向性を模索する必要性があると考える。
 そのためにはまず、過去における組合の経緯を調べ、再確認しながら進める必要があるのではと考え、下記に記した。
 我々の理容業界が長い歴史を積み重ね、今日に至り経営が出来ている事に対し、組合並びに貢献して頂いた諸先輩方、今の混迷した時代に貢献してくれている多くの役員の方々に敬意を表しつつ、今後の組合に必要な展開について述べたい。
 我々のこの理容組合は、全国理容連盟として昭和22年5月に設立され、昭和32年11月より全国理容環境衛生同業組合連合会、平成13年1月より全国理容生活衛生同業組合連合会と名称を変更し、この66年間という長い道のりを幾多の問題を乗り越えて来たのである。
(以下、全国理容生活衛生同業組合連合会を組織と表記する。)
 その中でも、現在も悩みの種となっている料金問題の一例を取り上げたい。
 その内容は、業界の統制料金が解除され、生活安定の兆しが見えるようになって2年目の昭和29年、大阪の淀川地区において低料金店とのダンピング騒動が勃発したことである。当時150円~200円が適正料金であったが、80円という低料金店が出現したことにより、周辺の店もダンピング騒動に巻き込まれ、組合員達がデモを行ったことで低料金店側より威力業務妨害などで告訴されてしまった。その責任を追求された当時の大阪の井手藤一氏(元大阪府連理事長・全国理容連盟副理事長)が統括責任者とされたため、警察に拘留され、釈放後に自宅にて自らの命を絶たれた。その時、組合員達に「業者自ら墓穴を掘るなかれ」の辞を残されたと伝えられてる。    
 それから約60年の時が過ぎようとしている現在も、低料金店との問題は悩みの種であり、解消されることなく継続している。しかし、今、それ以上の新たな大きな問題に直面していると私は考える。
 その一つとして、少子高齢化問題にも見られる様に国民の高齢化である。若年層の顧客の減少と組合加盟店の経営者達の高齢化により、売上げ減少の一因ともなっている。
 こんな時であるからこそ、今の社会に反映される様に、組織が推進している高齢者を対象とした「福祉理容」を上手く利用し、行政と提携することにより、新たな営業展開が必要な時期ではないかと考える。

【本論】

 今、日本の政治の不安定にも伴い、経済はより厳しい状況におかれているが、国民の少子高齢化も要因の一つであると考えられる。
 2012年には40歳以上が国民の70%を上回り、4人に1人が後期高齢者になると予測されている。この数字はあくまで全国平均値であり、過疎地域になれば更に3人に1人になるとも予測されている。
 当県における人口も減少傾向にあり、昨年は約100万人となり、全国においても8県が同様となっている。今後、このような県も多くなるであろう。
 私の営業している地域は人口24,000人程度であるが、昨年の出生数は200人を切っている。このことについては初婚年齢が上がり、初産年齢の平均も29.5歳となってきていることも要因の一つと考えられる。
 今後、人口減少は年々進んで行く傾向にあることを踏まえ、更に10年後には急速な少子高齢化地域になりうることは明確である。この上記の数字は、全国の多くの地域に当てはまることになるであろう。
 我々の組織も社会の流れと同様に、高齢化の道をたどり、少子化の影響も受け、理容学校への入学者数や若年層の理容師が減少し、組織力が低下しつつあると感じられる。少しでも早い時期、今の組織力が保たれている間にこそ、新たな営業展開を模索する必要があると考える。
 現在、我々が安定した生活を送ることができているのは、この組織の存在のおかげであると言っても過言ではないと私は考える。
 もし、この組織が無ければ、今の料金体系や休日・営業時間など、我々の今の生活が保たれていたであろうか。私は個人店では無理であったのではないかと考える。
 今までは、組織に加盟しているスケールメリットを生かし、調髪料金・休日・営業時間の3つの規約を大切に守ってきたからではないかと考える。また、充実している共済制度なども理由の一つと考えられる。しかし、これからは上記のスケールメリットを守りながら、我々一人ひとりが時代に合った営業方法等を先読みし、今までにない新たな事業展開を考え、成功実例等を連合会に提案していくことが必要であると考える。
 今後、加盟していることのメリットを明確にし、体感してもらえる組織作りをするためには、行政と組織が連携していくことが必要である。
 現在、組織内の約500の支部では、行政より福祉理容に対する助成をして頂きながら組合運営に成功している。
 今、私の近隣支部の取り組みであるが、高齢化社会への対応の一つとして、支部と行政が共に支えあい、高齢者の身体的・経済的負担を軽減したうえで散髪することができ、福祉理容参加店も新たな増収に繋がり、低料金店との格差をつけることが出来た実例について述べる。
(これは当県の1支部における成功事例である。)
 行政の福祉事業の一環として支部と行政(市)が連携し、要介護3~5の認定の方達に年間4回の在宅による福祉理容を行うことが出来るようになっている事例である。
 出張理容の際、本人1回あたりの負担額は1,300円で、行政より3,000円の助成があり、年間12,000円になる。このような取り組みは全理連の調査では、上記に述べた組織内の支部がある全国の約500市町村で行われている。
 当県内においても、もっと多くの市町村でこのような取り組みを実施できるように働きかけたが、ほとんどの市町村では財政難を理由に受け入れられることが出来なかった。   
 各市町村が財政難であるならば、県の生活衛生課や長寿社会課などから福祉事業の助成金の中から一部を助成してもらえるよう交渉に行った。
 そこで、なぜ、この福祉理容が出来ている市町村とそうでない市町村があるのか。出来ている市町村はどのような流れで出来ているのかを県の生活衛生課に依頼し、調査して頂いた。
 その結果、平成17年までは、国(厚労省)より50%が県に支出され、それに県が25%を助成したうえで、各市町村に交付されていた。しかし、平成18年以降は、県をスルーして国から75%が各市町村に助成されるようになった。
 これにより、国からの福祉助成金の使途については、各市町村で予算化されるため、県が関与することはできなくなったとのことであった。
 これらを踏まえ、福祉課において福祉理容への助成金を県から直接助成してもらうのは不可能であることが理解できた。
 しかし、色々な方面から模索した結果、国(厚労省)より、各都道府県に対し新規事業があることを知り得た。
 その事業とは、2年間の期間限定ではあるが、新しい公共支援事業の公募がされるというもので、当県への交付予定額は1億3千5百万円で、一団体に対して最高1千万円が交付されるというものである。
 この事業の趣旨は、国民の多様なニーズにきめ細かく応えるサービスを市民、NPO、企業等によりムダのない形で提供される社会を実現するため、従来は官が独占してきた領域を「公(おおやけ)」に、すなわち、民間に開くなど官だけでは実施できなかった領域を官民共同で担うなど、NPO等と行政がともに支え合う仕組み、体制の構築をめざすことを目的とした事業である。
 このような公共支援事業を有効に利用して各市町村の福祉課などに協力を要請し、2年間の期間限定ではあるが、要介護認定3~5の認定を受け、外出が困難な高齢者に対して在宅理容を行えるよう、年間3回まで、1回につき本人負担額を1,000円とし、各市町村から3,500円の助成で、自宅において調髪を受けられる「在宅理容サービス券」の制作・配布を提案した。
 今回、県内の2市に依頼し、受諾された中で、各市の福祉関係者からは「期間終了後もこの様な助成を継続して出来るよう努めていきたい」との声も聞かれた。これを機に、この事業の必要性を理解してもらい、継続事業に転化していけるよう努めていくことが必要である。
 行政側も最近の高齢化社会を踏まえ、福祉事業には前向きに検討しているとのことではあるが、各地域の市町村の財政事情にも影響され、全ての地域において実施できるかどうかは難しい。
 今までは、従来通りの経営で成り立っていたが、これからはこのように自分からアクションを起こして行くことが大切であり、必要である。このような国から高齢化地域に向けての補助金制度が実施されるようになれば、我々の業界の救いにもなると考えられる。
 これまでの理容業は、店舗においての技術提供が主であったが、今後の高齢化社会に適応していくにあたり、訪問理容の実施によって高齢者の快適な生活の確保や衛生保持に繋がることを行政にもより理解して頂き、連携を結ぶことも必要な時期であると思う。
 当組織でも、昨年より前向きに取り組んでいる「平成の廻り髪結い」、すなわち、訪問福祉理容をマスターし、老健施設や来店が困難な方の自宅等を我々が訪問し、技術を提供する時が来ているのではないかと私は思う。
 今、私(52歳)の店も顧客平均年齢は約55歳で、やはり、世間と同じく高齢化をたどっている。
 これからの18年間、全国の老健施設では入居率が100%となり、入居を希望しても入居待ち(待機)となる。その後は減少傾向になると予測されている。それまでは充分に稼動できる事業だと想定される。
 今までと同じ営業形態では、各店の増収は難しいのではないかと考えられ、その為に組織の推進事業などを利用し、早急な対応の時期であると強く訴えたい。

【結論】

 これまで福祉理容の助成金について述べてきたが、今、最も急を要する事業は後継者育成であると考えられる。
 少子高齢化の進む中、理容業界の現状も後継者が減少し、非常に厳しい状況である。理容専門学校の入学者は、平成7年の8,129人を頂点に減少に転じた。平成10年には養成施設2年制度の開始と相まって、前年度比で37%の減少となり、定員不足で閉鎖となった学校もある。平成21年度の理容師美容師の国家試験合格者は25,150名で、うち理容師合格者は1,878名となっている。この数字を見てもわかるように、理容師の合格者は全体の10%にも未たないことが伺える。
 さらに、理容業界の構造的課題も抱えており、理容師の高齢化により経営者の平均年齢は61.5歳となり、60歳以上の組合員が約65%を占め、その半数以上は後継者問題に悩まされており、新規加入組合員は全国で3,000人を切るのが現状となっている。
 このような現状をしっかりと把握し、理容業を魅力ある業界に作りあげていくのは他の誰でもない、私たち業界人であると思う。今こそ、理容という誇りある匠の技を継承し、職に対するプライドを持ち続け、組合員一同が共存共栄を掲げて強い絆を発揮することで社会に適応し、幅広く多くの人々から笑顔を頂き、心から喜んでもらえることにより、一層強固な「全国理容生活衛生同業組合連合会」となることを願い、私の提案とする。

 

 

審査講評
審査委員長  尾﨑 雄(生活福祉ジャーナリスト)

 副題の≪時代の変化に対応した組織作り≫は、まさに、時代認識にのっとっている。昭和29年、低料金店とのダンピング騒動に端を発する訴訟問題に巻き込まれて自殺した当時の大阪府連理事長の悲劇から説き起こし、個店の経営と全理連の組織が一体となって難局を乗り切ろうと呼びかける危機感のあふれた“檄文”である。
 その視点は「個」の創意工夫と組織活動の一体化だ。全理連の一員ならではの切り口で「スケールメリットを守りながら、我々一人ひとりが時代に合った営業方法等を先読みし、今までにない新たな事業展開を考え、成功事例等を連合会に提案していくことが必要」だと組織活性化の戦略的視点を指摘する。
 たとえば、和歌山県における「訪問理容」を例に挙げ、厳しい現実に向き合い魅力ある理容業界を創造するのは「他の誰でもない、私たち業界人である」とし、「誇りある匠の技」を継いで行こうと呼びかける。分かりやすく、熱い思いが伝わる文章だ。

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