令和元年度振興論文・優秀賞

 

理美容の統合を見据えた互恵関係の礎
『ベストヘア大賞』創設への提言

狐塚 均(埼玉県組合)

 

《目次》

【はじめに】
 理美容間の歴史を踏まえて

【本論】
 Ⅰ,「ベストヘア大賞」とは
 Ⅱ,「ベストヘア大賞」の詳細
 Ⅲ,実施後のイメージ

 【おわりに】
 新たな業態誕生の好機を前にして

 

【はじめに】

 理美容間の歴史を踏まえて

 40年余り前、理美容間で既得(きとく)権益(けんえき)をめぐり「パーマ戦争」と称(しょう)された争いごとがあった。今にしてみれば、誠に滑稽(こっけい)とも思えるようなものであるが、この事態を経て理容と美容の関わりが現在に至っていることも確かである。
 その後状況は変化を重ねる訳だが、平成中期頃であろうか「理美容業界に於ける垣根」という括(くく)りで、様々な情報が錯綜(さくそう)していた頃があった。「理容と美容が翌年にでも統合される」という真(まこと)しやかな噂(うわさ)が存在したかと思えば、年が変わってみれば「そんな話は何もなかったかのような状況」も現実にあった。
 そして時が流れ、数年前から大きく変化したことと言えば、理容室での女性のパーマが公に認められ、逆に美容室での男性のカットも公認されるようになった。これによりパーマ戦争も完全終結に至ったと言えよう。
 理美容の統合は、今後も機会ある毎に論議の的となって行くことと思うが、私は必ずしも「直(す)ぐにでも理美容間の垣根が取り除かれれば良い」と考えている訳ではない。しかし時代と共に法律や習慣が変わることは当然である。そのため常に状況を受け入れ、その中で一番良い方法を考えることが“個人レベル”としては、大事であると思っている。そこで今の時代を見ると、流れは確実に統合に向かっているようにも思える。であれば「その状況を見据えて今の内から対応することが重要」なのではないだろうか。
 統合の前段階として理美容互いの利益と、消費者の得のために力を合わせることが出来れば、大きな価値と言える。私は、その第一歩として理容と美容で創る企画「ベストヘア大賞の創設」を提言するものである。それは理美容業界に於ける、互恵(ごけい)関係構築への礎(いしずえ)になるものと信じている。本論では、そのための具体的な手法を述べる。 

【本論】

Ⅰ,「ベストヘア大賞」とは

1.ベストヘア大賞提案の概略(がいりゃく)
 俗な話ではあるが、年末恒例の我が国の行事の一つに「レコード大賞」がある。それに関連して「歌謡大賞」や「有線大賞」などもある。それは音楽関係の中での賞であるが、他の分野で見ればジーンズの似合う有名人などを対象とした「ベストジーニスト賞」がある。またメガネ業界では「メガネベストドレッサー賞」などもある。これは「メガネの最も似合う人や、今後メガネをかけて欲しい人」を表彰する賞だそうである。どの賞も主催業種側のPR効果を目的として、消費者に向けた楽しい行事としていることが明確である。
 私は前々から理美容業界もこのように消費者を交えて、髪型に関する楽しい企画があれば良いと思っていた。その度に振興論文などで、何か提案をすることが出来ないかと考えていたがやっと私の中で、この想いと「理美容業界の互恵関係」とが結び付き、ここに「ベストヘア大賞」創設の提案をするに至った。

2.理美容での取り組み意義
 当初私は「ベストヘア大賞」のようなものなら、理容組合単独でやれば良いのではないかとも考えていた。しかし理美容の統合を見据えて考えてみると、やはり理容だけで行うよりも理美容合同で行う方が、遥(はる)かに成功した催しになるのではないかと思うようになった。
 それならむしろ、このイベントを理美容業界が相互のプラスになるようなものにすれば好都合である。理美容が一つのヘア産業として、共に力を合わせて協力し合えば催し規模も大きくなり、消費者の参加意識と髪型への興味も高まり、理美容互いのメリットとなり得る。 

Ⅱ,「ベストヘア大賞」の詳細

1.受賞対象者
 ベストヘア大賞は、「メンズ」「レディース」「シニア」の3部門で構成される。メンズとレディースの部門では、理美容がこれまでの利害を超えて、共に創って行くことに意義がある。それは現在の環境の中で、同じ土俵で競うことでもあり、両者の切磋琢磨と共存共栄にも繋がる。なお部門は、ジュニア部門や外国人部門などを増やすと華やかさを増すが、それは実施後の展開次第で必要であれば、その時点で検討すれば良い。
 またこの企画は、対象者がどこでヘアカットなどをしているかを問うものではない。理容室であっても美容室であっても構わないのはもちろんのこと、国内であっても海外のサロンであっても良い。即ち対象者の髪型がその年、消費者からの評価が高ければ良いことである。

 部門の解説は、次の通りである。

①メンズ部門
 理容業界としては、本来の主体である男性客をより強固な関係にしたいと思うところである。また美容業界としては、男性客を更に誘導したいという考えがあることと思う。

②レディース部門
 これはメンズ部門とは逆に、美容業界は本来の女性客を更につなぎ止めたいと思うところだが、理容業界としては今後女性客の更なる獲得を望みたいものである。

③シニア部門
 対象は65歳以上の男女いずれかである。今は“人生100年時代”とも言われ、高齢者の時代である。高齢者の髪のおしゃれ感をもっと高めるために、この部門は効果を発揮する。そのためメンズ・レディースとは別にこの部門を設けることが望ましい。

2.受賞者の選出
 受賞者の選出方法は主催者側のみで選出する方法と、消費者の一般投票で選ぶ場合の二通りが考えられるが、私は消費者に興味と参加意識を持ってもらうために、消費者に全てを任すことを本提案とする。そして事前のノミネートも不要と考えている。

方法は次のように行う。

①対象範囲
 各部門共、全くの個人的な人ではなく、ある程度の有名人や公共性のある人の中から消費者が直接選ぶものとする。

②応募
a.ウェブでの応募
 ウェブ上に専用の応募ページを作り、ウェブを介して募集するものである。この方法を本企画に於ける募集の主体とする。

b.葉書による応募
 ゆくゆくはウェブのみでの募集が良いが、現段階としてはウェブを苦手とされる方も少なくないので、官製葉書による投票も可能とする。

③運営と受賞者の決定
 運営全般に於いては、理美容双方の業界から事前に選ばれた運営委員の責任の元で行われる。なお受賞者決定は要項に沿っていることを原則とし、応募での数の多さで各部門共、上位1名を大賞として選ぶ。但し対象者が受賞の辞退をした場合など、問題が生じた場合は次点者を繰り上げる。

3.発表と表彰の日程
 発表は毎月の頭髪の日に因(ちな)み11月の18日に行い、表彰は翌月の12月18日前後に行う。仮にこの企画がスムーズに実行された場合、第1回ベストヘア大賞表彰式は、令和3年12月18日の開催が可能ではないかと考えている。

4.実行に関わる対策

①告知
 本案は多くのマスコミに取り上げられ、誰もが知るものにして行かなくては意味がない。また将来的にも歴史ある催しにしたいものである。
 今は、動画配信やSNSの活用などで、一般人が情報を社会に発信できる時代である。そのため費用を余り掛けなくても、理美容の組合員がウェブ上で「ベストヘア大賞」を常に話題にすることなどで、数の論理が働き大きな宣伝力になる。現状の組織を活かし組合員が力を合わせれば、これまでにないような告知が出来る。

②予算
 予算は、理美容の組合での折半を基本とする。但しスポンサー制度を設けると共に、個人でも寄付が出来る仕組みを作ると良い。個人の寄付としては、これを盛り上げようとする意志に期待するところである。なおスポンサー制度としては、当事者に当然メリットがないと成り立たないものであるが、ベストヘア大賞が実施された時点で既に理美容師向けでの広告価値は十分あるものと思われる。このように個人でも団体でも、協力出来るようにしておくことがスムーズな運営に繋がる。

③諸問題への対応意義
 この提案は企画書ではないので大まかなものである。つまり細部については未完成と言える。実際に実行するとなれば、具体的な部分を決めて行かなくてはならない。何でも新たなことを始めるには、大変さが付き物である。
 話は再び「パーマ戦争」に触れるが、そこからの揉め事はどう見ても、消費者の存在をあまりにも軽視していたような気がする。大事なことは、社会に消費者が楽しめるような良いサロンを創って行くことではないだろうか。この歴史の末に、現在双方の組合同士が良好な関係であるか否かなどは私には解らない。しかし今どのような関係であっても、これまでの歴史の是非を活かし、ここで苦労を共にすることは双方にとって意義深いものとなると思う。「創って行く段階から双方の業界が互いを認め合う」より良い関係が築かれるのではないだろうか。

Ⅲ,実施後のイメージ

「今年のベストヘア大賞は・・・」などという楽しい話題が毎年マスコミ各社で取り上げられたら、どうであろうか。消費者は、それに期待しもっともっとヘアスタイルに興味を持ってもらえる状況が考えられる。髪型とは自分自身のことであり、誰しも元々興味がないはずがないと思う。本案を実施することで、そのムードは益々助長され、消費者にとっては理容と美容の枠を越えて、ヘアサロンがもっと身近なものになる。

よくお客様から「理容と美容って何が違うの?」と聞かれることがある。お客様にとっては、理容と美容の違いなど良く解らない人が多いようである。つまり消費者からすれば理容も美容もなく、ただ気に入っているヘアサロンに行っているだけなのではないだろうか。

また「ベストヘア大賞」が話題になることは、世の中が平和である証でもある。理容と美容が手を組むことで、こんなに楽しくて素晴らしい社会を作ることが可能となる。そしてベストヘア大賞が令和の時代に在り続ければ、より良い社会が永く続いて行くことでもある。

【おわりに】

新たな業態誕生の好機を前にして
 最近、学校教育の現場などでは、理容師と美容師の資格を有するダブルライセンスが話題となっているようである。理美容師が互いに両方の資格を持つことは、それぞれのサロンで新たな消費が生まれる可能性を秘め、業界を良い方向に変えて行くことになる。これこそ正に統合への第一段階ではないだろうか。前述した通り、私は理美容が統合の方向に進もうとするのであれば、タイミングを逃さず、その準備をすることが望ましいと思っている。
 さてここからは、理容業界側としての立場ではあるが、統合するのであれば理容にプラスのあるものにしなくてはならない。正直なところ数から言えば、統合と言っても対等ではないような気がする。理容師にとっての宝である“シェービングという手土産”を持って行ったにしても、やはり弱いことは事実だと私は思う。しかし両者がそこだけを考えていては、ヘアビジネスの未来は暗いままであり、好機を逸(いっ)することになる。
 もし統合して理美容の新たな形が生まれるとしたら、そこには人材も豊富で、様々な業態が出現しているのではないだろうか。ブライダル・エステ・シェービングサロン・メンズ専門店・レディース専門店・ファミリー向けサロンなど、アミューズメントの新しい幕開けとなり、これまでにはないような進化した業態が生まれて来ると思われる。つまり規則や風習が変われば自然と競争原理が働き、予想を超えた良いものが生まれてくるものである。そうなれば理容業界だけではなく、美容業界にとっても大きなメリットになる。また新たな業態は何より消費者に対し、夢の提供に繋がる。そんな好機に近づこうとしているのである。
 話を戻して、本案は理美容の統合を見据えての提案であるが、仮にこのまま統合することはないとしても、ベストヘア大賞の実施は理美容双方のイメージアップに繋がり、若者の職業選択に於いても、理容業または美容業への参入の切っ掛けとなり得る。
 昨今のバーバーブームも、理容業界だけではなく、美容業界でも様々に変化が表れている。このブームは、理美容が変わって行く追い風でもあり、理美容の進化の象徴のような存在とも言えるのではないだろうか。これを無駄にすることなく、今後の発展の機とすることが望ましい。「今こそ消費者を交え理容と美容が一丸となって、明るい未来に向かって進むべきである」と私は強く考えている。何故なら「未来は明るくてこそ、若者が夢を持てるものであるから・・・」

 


 

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