令和元年度振興論文・優秀賞

 

訪問理容を通じて感じたこと

原田 良太(兵庫県組合)

 

《目次》

第一章 はじめに

第二章 新規お客さまの獲得

第三章 最初の営業活動で得たこと

第四章 本格的な営業活動の開始

第五章 信頼関係の構築

第六章 今後の展開

第七章 おわりに

 

第一章 はじめに

 私は、三年間の修業を終え昨年四月に実家の理容室へ戻って来ました。実家の理容室は、祖父母から父母へ、そして私と俗にいう三代目となりました。現在は、私と母とパートスッタフの三人で営んでいます。実家の理容室は、売上がたくさんあるという状態ではありません。むしろ私が戻って来たことにより人件費を圧迫する状態になりました。サロンをリニューアルしようかと考えました。しかし、私の実家は、サロンと家が一緒であり、三回に分けて建てているということもあり、一番古い所は築五十年の木造部分です。そのためサロンをリニューアルするときは建て替えるときと考えていました。となると現状のままのサロンでどのようにして新規のお客さまに来ていただくかを考えました。出た答えは二つでした。

・訪問理容
・営業時間の延長

でした。今回は、訪問理容を始めるにあたり、どのような取り組みをし、今後の展開について考えていきたいと思います。

 

第二章 新規お客さまの獲得

 訪問理容を進めていこうと決めたものの、経験も実績もなかったのでゼロからのスタートでした。知り合いに在宅や施設へ伺いカットをしている方がいました。その方にお願いして一緒に施設や在宅を回らせて欲しいと頼んだところ、快く受け入れてくれました。施設でのカットは、車いすの方、首が曲がって肩と耳がくっつきそうになっている方、暴れる方といろいろな方がいました。もちろんおとなしい方もいました。私は訪問理容初日に感じたことは、慣れていないということもあったのか、思った以上にサロンワークと違い大変であると感じました。しかし利用者さんからの「ありがとう」や「ごめんね~わざわざカットに来てくれて」と感謝の言葉をよくかけてくれました。とてもありがたい仕事であると感じました。ボランティアではなく、仕事で行っています。利用者さんから施術料金をもらっています。それにも関わらず、多くの感謝の言葉をいただけることにやりがいを感じ、早く私のサロンでも訪問理容を始めたいと思いました。
 知り合いの方に、カットするときの注意点や声掛け、持ち物、高齢者をカットするときのヘアスタイルなどいろいろと教えてもらいました。必要な用具類はすべて揃え、いつでも依頼が入れば伺える状態となりました。しかし、依頼が入りません…。新規お客さまを獲得するにはどうしたらよいのか悩みました。新規お客さまを獲得するために行ってきた取り組みについて、次章で解説していきます。

 

第三章 最初の営業活動で得たこと

 これからますます高齢化が進んでいく中で、訪問理容を利用したいと思っている方は多くなっていくことと思います。訪問理美容だけで仕事をしているところもあることを知りました。少しでも多くの方に知ってもらうことが出来れば、依頼も増えるのではと思いました。
 パソコンを使用し、サロンの紹介とメニュー、料金、場所など必要な情報を打ち込み、二枚の案内を作成しました。その案内を持って近隣の老人ホーム、デイサービス、グループホームへ行きました。案内は受け取ってはくれるものの、手ごたえは一切ありませんでした。担当の方から、「すでに契約しているところがあるのです」と何度も言われました。確かに施設ができる直前か直後には、訪問の理美容師と契約を結んで来てもらえる段取りをするはずです。既存の施設等は、契約している理美容師がいて、始めたばかりの私たちを受け入れてくれるところはありませんでした。
 お客さんの中に施設で働いている方がいました。その方に相談をしたところ、「まずは在宅でのカットを積極的に始めてみるのもいいかもしれない」と言われました。在宅のカットをしていく中で実績をつけていくと施設からの依頼もあるかもしれないと思いました。

 

第四章 本格的な営業活動の開始

 サロンとして、訪問理容をしていることを積極的にアピールしていこうと思いました。HPを制作会社に依頼しました。今まで使用していた自前の二枚の案内もやめて、三つ折りの案内を制作してもらいました。新しい案内は写真を多用に活用し、表記もわかりやすく、イメージしやすい案内となりました。施設やお店の受付、配付用、ポスティング用と使用できる用途の幅が増えました。
 HP、案内が完成し、再度営業活動開始です。知り合いの方から、居宅介護支援事業所があることを教えてもらいました。居宅介護支援事業所とは、在宅の要援護者が適切に介護サービスを利用できるよう、ケアマネージャーが様々な手続きや直接調整を行う事業所です。ここに案内を持って行き紹介してもらえないかと思いました。私のサロンがあるエリアだけでも五十を超える事業所がありました。こんなにたくさんあるのだと驚きました。実際に事業所を回って行き、ケアマネージャーさんと名刺交換をし、内容を説明し、カットを希望される方がいらっしゃいましたら紹介お願いしますと伝えました。初日、十事業所へ案内を持っていっただけで、とても疲れて帰って来たことを覚えています。営業経験のない私にとって、これほど過酷であるとは想像もしていませんでした。その営業活動を平日は毎日行きました。二週間程度で私のサロンがあるエリアをすべて回ることが出来ました。依頼の状況はというと…依頼は一件もありませんでした。しかし、回数を重ねていくにつれて、話す順番や興味を引いてもらうためにはどうすれば良いのかと課題が出てきました。出てきた課題を一つ一つ解決していきました。エリアを広げていき、四ヵ月で三〇〇を超える事業所を回りました。年末までにカットを希望される方が多いのではと思い、配り終える予定でしたが、実際にはサロンワークも重なり年をまたいでしまいました。十二月に入り最初に配った地域からの依頼が数件ありました。とても嬉しかったことを覚えています。それ以降も依頼を少しずつもらうことができました。結果はすぐには出ず、少しずつ継続してやっていくことが大切であると感じました。

 

第五章 信頼関係の構築

 訪問理容の依頼をいただき、お客さまの家に行ってカットをします。他人が家に上がってくることに対する抵抗感があるのではと思い、お客さまとの信頼関係を築いて、安心してもらうことが大切であると思いました。あいさつ、声のボリューム、気遣い、寄り添う気持ち、そして感謝の気持ちをもって接することを心がけて臨みました。施術が終わりお礼を言うと、お客さまから「わざわざ来てくれて本当にありがとう」「家から出ることが出来ないから来てくれたら助かるわ」と感謝の言葉をたくさん言ってもらいました。これほどまでに感謝されるのだと、驚いたと同時にやりがいのある仕事であると感じました。
 訪問でいくと家族さんがいるときもありました。家族さんから「訪問理容があること知りませんでした」「もっと早くからお願いしていれば良かった」と言われることがありました。私たちの業界では当たり前のことが、一般のお客さまは知らないことも多く、まだまだ広めていくことにより需要はあると思いました。
 居宅介護支援事業所のケアマネージャーさんとの信頼関係の構築です。何回も事業所に伺うのもどうかと思うので、紹介してもらったお客さまの施術が終わったら、お礼のあいさつで伺うようにしています。そのときにカットをしているときに感じたこと、髪型について説明することにより、安心してもらえたらと思いました。
 訪問理容を通じて、お客さま、お客さまのご家族さん、ケアマネージャーさんとの信頼関係を築いていくことが、安心感を与え、次に繋がると感じました。

 

第六章 今後の展開

 訪問理容をしていく中で、お客さまやケアマネージャーさんからメニューをもっと増やして欲しいという声がありました。最初は、カット、お顔そりのみでやっていました。シャンプーを希望されるお客さまもいましたが、断っていました。それほどシャンプーは需要がないと思っていましたが、シャンプーだけを希望されるお客さまもいました。このままシャンプーを希望するお客さまを断っていては、なんのために訪問理容を始めたのかわからないと思い、対応できるようにしていきました。シャンプーが出来るようになるといろいろなことが可能になりました。カラーやパーマも自宅で出来ることが可能になります。カラーやパーマを自宅でしたことはありませんが、希望があれば出来る準備はしています。お客さまの八割以上が女性です。パーマやカラーの話になることが多く、今までは話に触れなかったのですが、これからは積極的に進めていくことが可能になりました。
 今後はもっと多くの方に知ってもらい、安心して任せることの出来る訪問理容店でありたいと思っています。最初から出来ないと決めつけるのではなく、チャレンジしていこうと思いました。

 

第七章 おわりに

 私は、実家の理容室に戻って来て、待ちのスタイルではお客さまは増えないと気づき、訪問理容を始めようと思いました。訪問理容で営業活動をし、全く依頼が入らず心が折れそうになったときもありました。あきらめることなく自分が決めたエリアの事業所はすべて回ると決め、すべて回りきることが出来ました。そうしている間に少しずつ依頼が入るようになってきたことがとてもうれしかったことを覚えています。それと同時に自信に繋がったことが一番大きかったと言えるかもしれません。
 訪問理容を通じて新しいお客さまに出会い、いろいろ話をしてもらい、お客さまから「ありがとうありがとう」と感謝されて、「また来てくださいね」と言われる場面がたくさんありました。そう言ってもらえることに喜びを感じ、やりがいを感じる仕事であると思います。これからも、私たちを信頼してくださる、お客さま、お客さまのご家族の方、ケアマネージャーさんの期待に応えていけるように日々精進していきたいと考えています。

 


 

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