「多様化メニュー」で顧客獲得へ

 

「多様化メニュー」で顧客獲得へ
~選択肢を増やし、顧客ニーズをつかむ~
全国理容総合研究所

 

はじめに

 既存の理容サロンの主力メニューは、カット、シャンプー、シェービング、セットを組み合わせた<総合調髪>である。また、近年はエステ技術を取り入れたヘッドスパ、アイスパなどの癒し系メニュー、ヘアカラーやパーマなどのオシャレ系メニューも普及し、新たなニーズの開拓が行われている。このような理容サロンの営業に対して、カットのみを営業メニューとする新業態型サロン(10分1,000円等)の台頭によって、近隣地域の組合員サロンは大きな影響を受けている。
 全国理容総合研究所では、業界エゴではなく顧客がメニュー選択しやすくなる方策を勘案しながら、台頭しているカット専門店に対抗できる強靭なサロンをいかに構築するか、カット専門店に流れた顧客をいかに取り戻すか、を喫緊の課題として取り組んでいるところである。そこで、このようなカット専門店に対抗できる営業方法の一つとして、<総合調髪>ありきの営業方法から、これまで理容業ではタブー視されてきた<単品メニュー>の要望にも対応(美容業界では以前から実施している)するなどして、顧客の選択肢を増やすとともに、カットを主軸にした組み合わせのバリエーションにより、多様化する顧客ニーズに対応できる「多様化メニュー」への取り組みを提言する。
 本提言はとくに、比較的人口の多い都市部や郊外の主要駅周辺に進出しているカット専門店によって、大きな影響を受けている既存理容サロンへ向けての提言としてまとめたものであり、競争関係が緩やかな地域や立地における理容サロンにおいては、従来からの<総合調髪>を基本にしたサービス内容の充実を図ることにより既存固定客の顧客満足度を高め、来店頻度を増やす努力を続けるべきである。 

 

限られた客層をいかに獲得するか

 わが国は既に総人口の減少や世帯数の減少による、市場全体の縮小過程に入っている。また、少子高齢化の進展と人口構成の変化による、ライフスタイルの質的な変化も生じはじめている。一例をあげると、食品スーパーなどでは一人世帯用のカット食材や小分け惣菜などの売上げが伸び、ますます多様化している。これは主要客層(主婦層)とは別の新たな客層(単身者)を獲得するための業態化の分かりやすい事例である。コンビニにおいては若者や単身者の主要客層の他に、主婦層や高齢者向けの商品の品揃えを充実させるなどして、新たな客層にアピールしている。多様化する顧客ニーズに対応するため、客層ごとに商品の選択肢を増やし、新たな客層の開拓につなげている。さらに、情報通信技術(インターネット)の発展が、高齢者を中心にしたネット販売利用者を大幅に拡大させている。わざわざ出かけなくても自宅で買い物ができ、商品が届けられる利便性が、高齢者に受け入れられているのである。
 従来からある商店街の小売店は、大きな影響を受けるとともに営業方法の見直しを迫られている。このように地域において限られた客層をいかに獲得するかが、各業種にとって大きなテーマとなってきている。
 同様のことが理容業にも起きている。理容業は一概に一般小売店と同列には扱えないが、近年の男性客の理容サロン離れ、利用客の高齢化による来店頻度の減少、カット専門店の進出・新規開業等による顧客の流出等により、既存の理容サロンは大きな打撃を受けている。必要なものを必要なだけ必要な時に購入するという、今どきの社会風潮に適合したカット専門店は、時間や金銭的余裕のない層や、一応髪が短ければ良いという層に受け入れられている。さらに、少子高齢社会において新規顧客の獲得やなじみ客の維持も困難となり、経営者の高齢化や後継者難が、既存理容サロンの売上減少に拍車をかけている。
 取り組むべき課題は多くあるが、本提言では前述のとおり、カット専門店によって大きな影響を受けている既存理容サロンが、地域における限られた客層を獲得するための営業方法の見直しを提言するものである。 

 

<カットのみ>の顧客を積極的に受け入れる

 言うまでもなく理容サロンにおける売上は、〔総客数〕×〔平均客単価〕となり、理容サロン経営者としては、〔客単価〕と〔客数〕をいかに増やすかについて日々腐心しているところである。既存の理容サロンでは、現状において客単価を上げることはかなりの困難を伴うであろう。安易な値上げは既存顧客の不満を招くのみならず、新規顧客を遠ざけることにもなりかねない。<表-1>の「総合調髪料金の推移」では、平成10年から殆ど変化が見られない。さらに、<表-2>の「営業収入の推移」では、大きく減少している。

※「理容統計年報」(平成26年8月調査)より抜粋(1,405サンプル)

 一方、客数を増加させるには、既存顧客の来店頻度の増加と新規顧客の獲得ということになる。理容サロンの場合、多くが「固定客」なので、最も重要なことは、既存顧客のニーズに対応した顧客満足度の向上に努めることにより、固定客として維持し、さらに来店頻度を高める努力と工夫を行うことである。その努力を惜しむと、近隣のカット専門店に顧客を奪われることにもなりかねない。  
 例えば、一般的な理容サロンの基本メニューである総合調髪を品目ごとに分けると、カット、シャンプー、シェービング、マッサージ、セットとなる。これらを顧客が自分で選択しやすくできるように、選択肢を増やしメニュー化したのが「多様化メニュー」である。とりわけ重要なのは、カット専門店では行っていない(行えない)「シャンプー」「シェービング」といった理容の基本技術に積極的に取り組み、その質を高める努力によって、カット専門店との違いを際立たせることである。このことは、一旦はカット専門店に流れたが、カットだけでは満足しなくなった客層を取り戻すことにもつながる重要なポイントである。  
 同時に、積極的にカットのみの顧客の要望にも対応することが求められる。カット専門店とは違い、既存の理容サロンには「シャンプー」「シェービング」にも対応できる理容椅子と洗髪設備やタオルスチーマー等の器具・器材そして技術がある。カットのみで来店した顧客に対して、その場で他のメニューをプラスすることがいつでもできる強みがある。カット専門店が定着しつつある地域では、堂々とカットのみの顧客の要望にも対応するべきである。そのような多様化した顧客のニーズに応えるのがサービス業のあるべき姿であり、前述の食品スーパーやコンビニの業態化の事例が参考となるであろう。  
 既存の理容サロンでは実に多くのサービスメニューを揃えている(<表-3>参照)。これらの「多様化メニュー」を顧客の選択肢として指し示すことにより、顧客満足度を高め、新規顧客獲得へとつなげていくべきである。

 さらに次頁の<表-4>「利用したメニューと利用したいメニュー」(一般消費者1,477名を対象にした調査)をご覧いただければ分かるように、男性・女性ともに「カット」のニーズが一番多くなっている。美容業では以前から顧客の選択による「多様化メニュー」で対応しているが、理容サロンにおいても本格的に「多様化メニュー」に取り組むことになれば、カットのみで来店した顧客が、店内の「シェービング」や「ヘッドスパ」の顧客と同時に居合わせることにより、他のメニューとの組み合わせを希望するようになることが期待できる。カット専門店ではカット以外のメニューはなく、顧客に選択の余地はない。このようなカット専門店の真似をするのではなく、多くのメニューに対応できる既存の理容サロンの強みを活かした、顧客のニーズに対応(選択に任せる)した戦略的視点に立脚した「多様化メニュー」導入により、新規顧客の獲得につなげることができる。
  「カットだけでもご来店ください」といった積極的なPRが必要なのは言うまでもなく、カット専門の低料金チェーン店に流れた顧客を取り戻す努力を今こそするべきであろう。

 

既存顧客と新規顧客への情報発信は不可欠

 今後、ますます業態化が進展し業界の垣根を超えた顧客の奪い合いが激化することが想定できる。その対応策としては、まず既存顧客のニーズに対応した顧客満足度を高め、他店への流出を防ぐことが重要である。季節ごとにインテリアに変化を持たせたり、提供する技術メニューに一工夫加えるなど、マンネリ化を防ぎ飽きさせない気配りが求められる。新規顧客に対しては、来店動機の創出につながる工夫を常に行うことである。前述の「カットだけでもご来店ください」といった情報発信を行うとともに、店頭(外から見える場所)にキャンペーン等の掲示やポイントカードやクーポン券の発行といった、情報提供は不可欠である。
 既に「多様化メニュー」に取り組んで地域に定着しているサロンもある。その多くがカット+シャンプーをセットにして、それに顧客の要望による単品メニューを加えるパターンで営業している。サロンのタイプも、競合店が多い中<地域密着型高級サロン>として大人の男性・女性に人気のある店や、ヘアケアメニューが豊富で、カット以外のメニューで客単価を上げている店などさまざまで、それぞれ顧客から支持されている。さらに、手軽なクイック(時短)メニューと時間をかけて行う高額なメニューを用意して顧客の選択肢を広げるなどの工夫も行われている。
 地域に密着し、20年30年同じ場所で営業している既存理容サロンには、毎回担当技術者が替るようなカット専門の低料金チェーン店にはできない、強みがあることを再認識するべきであろう。
 最後に、「多様化メニュー」の一例として厚生労働大臣が認可した標準営業約款(Sマーク)で定められている、提供する役務の種別を記載する。単品メニューはもとより、これらの役務の種別の組み合わせによるコースメニュー等、各サロンの実情に沿った設定が可能となる。

 

【「Sマーク」で提供する役務の種別】

ア  総合調髪
 「カット(刈込み)」、「シェービング(顔そり)」、「シャンプー(洗髪)」、「セット(仕上げ)」の各施術を組み合わせて行う。

イ  カット(刈込み
 クリッパー、鋏、レザー及びクシ等を用いて毛髪を切り、長さ及び疎密を整えることにより求められたヘア・スタイルを形づくる。

ウ  シャンプー(洗髪)
 シャンプー剤を用いて毛髪及び頭皮を洗う。

エ  シェービング(顔そり)
 カミソリ(レザー)等を用い顔面及び襟足を剃り、クリーム等の塗布、顔面清拭等の施術を組み合わせる。

オ  セット(仕上げ)
 整髪料等を使用し、ドライヤー、クシ及びブラシ等により整髪する。

カ  子供調髪
 15才以下の子供に対し「総合調髪」の各施術を行う。

キ  パーマネントウェーブ
 パーマネントウェーブ用剤及びロッドやドライヤー等を使用し、永続的なウェーブ、カール又は癖づけ等を与え整髪する。

ク  アイパー
 アイロン及びアイパー用剤等を使用し整髪する。

ケ  アイロン
 アイロンを使用し整髪する。

コ  毛髪・頭皮保護コース(ヘッドスパ・トリートメント)
 トリートメント剤を顧客の毛髪・頭皮の性質・状態に合せて用い、マッサージ等の技法により、毛髪・頭皮を健康な状態に整える。

サ  染毛(ヘア・カラーリング)
 染毛剤を用いて毛髪を求める色に永続的に染める。

シ  BBエステティック
 フェイシャルトリートメント、ボディケア、ネイルケア等を組み合わせ、全身の皮膚、肌を清潔にし、美しくする。

ス  レディス・エステ・シェービング(ブライダル・シェービング)
 女性客に、シェービング、フェイシャルトリートメント、パック等による美顔操作を与えて肌を整える。特に、婚礼に合せて行うのがブライダル・シェービング。

セ  ネイルケア
 爪の形を整え、磨き、美爪剤の塗布等により手指を美しく健康的に整える。

ソ  訪問福祉理容
 疾病その他の理由により、理容所に来ることができない人に対し、「総合調髪」の各施術、パーマネントウェーブ、アイロン、染毛等の各施術を行う。

タ  かつら(ツーペ、ウィッグ)
 自然脱毛や病気、ケガ、火傷などの医学的疾患により頭髪を失った人が、もとある頭髪を補ったり、またはファッションの一部として別の髪型に見せるために使う人工的な髪(全頭かつらをウィッグ、部分かつらをツーペ)を用いる。製作(採寸、発注)からメンテナンス、自毛との調整など総合的に整髪する。


 

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