曾野綾子~銀座の理髪料金=理容+能書

 

昭和31年ごろ、理容料金は150円だった。当時、曾野綾子という女流作家の『理容の能書』というコントがある。
「わたくしと彼は些細なことで口論した。彼はやりきれない顔をしてぷいと家を出て行った。
わたくしは、気をまぎらわすように、鏡に向かって自分の顔に手入れをした。彼が、夕方、ひょっこり帰ってきた。みると、頭髪が綺麗になっていた。櫛目が見事にはいって色彩が美しかった。
わたくしは『まあ…』といった。彼は、クスッと笑うと火鉢のそばに坐った。淡い香りがわたくしの鼻に匂ってきた。ポマードの匂いか、ローションの香りか、とに角高級な匂いだった。
『あなた、理髪店にいらっしったの』
『うん、くさくさしたのでね。銀座にでてから、一流理髪店に入ったんだ。そこでいろいろな能書をきかされたよ』――」
こんな調子の会話で、作家らしい表現でその理髪店の能書をしゃべっている。コントの「わたくし」は曾野綾子で、「彼」は夫の三浦朱門のことだった。
コントの中で、「理髪店の能書」ときめつけているけれど、理髪師にすれば客は千差万別だから客の注文が、時々とまどわせることがある。
硬い毛、軟らかい毛、クセ毛、毛流それを客自身に知ってもらうことと、顔との調和が大切なことだ。
髪を刈るという仕事は、顔の調和から人柄の調和にポイントが置かれてきたのだから、客に分かってもらうことが大切でしゃべっている。
軟らかい、細い毛の客が流行を追って慎太郎刈だという。ショートスタイルは結構な話だけれど、結構でない人柄もある。毛の質も大切で、理容師は良心的な仕事のうえでおしゃべりをする。
コントの彼は、理髪店のひとときをこんな風に語る。
――『いろいろと理容の話を聞かされてみると、楽しめたね。おかげで、さっぱりした気持ちさ』
『それで、料金はいくらでしたの』
『500円だよ』
『まあ!』彼女はびっくりした表情で『理容+能書=500円。理髪料金の3分の2は能書代ね』と、言った。――女流作家といえどもご婦人である。


 

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