平成27年度業界振興論文・優秀賞

高齢化問題を抱える理容業の未来像
~全国理美容NPO法人の可能性と今後の展開~

細川尊弘氏 (福岡県組合)

 

序論  理容師の高齢化問題の背景

 理容統計年報によると、理容師の平均年齢は平成25年8月現在、64.6歳である。これは、明らかに理容師の高齢化が進んでいるといえる。また、一施設当たりの従業者数は約1.83人である。つまり、一人経営の店が多いということである。私の両親をはじめ、以前は夫婦で理容従事者という店舗も多かったが、現在は私の周りでも、夫婦で理容従事者という人たちは稀である。
 私は四十代の理容師で、六十代後半に差し掛かった両親と三人で理容室を営んでいる。私が最近思っていること、それは「両親と一緒に、いつまで仕事ができるか?」ということである。このことは決して、他人事ではない。私もいずれは齢を重ね、老いていく。もし、このまま時がたち、一人で経営することになるのなら、店は回らない。何から何まで一人でして、冠婚葬祭や病気などになっても有休もまかりならず、負担が大きくなることは目に見えているのである。これから集大成へ入っていく理容師にとって、高齢化による体力的な衰えは共通の問題であるということを私たちは認識しておかなければならない。
 両親は少ないながらも年金の受給年齢に達したので、本来なら、悠々自適の生活を送ってもらいたいということが私の本心である。なぜなら、この年齢になると、病院通いも増えてきて、休日はそれで半日を費やすということも珍しくなくなったからである。
 しかしながら、自営業者が加入している国民年金は40年間満額支払っても、平成26年度は年間772800円である。月換算で66400円。ここから、介護保険料などを差し引かれると、残るのはわずかなものである。これでは年金生活もままならない。したがって、余程の蓄えがない限り、できるだけ「生涯現役理容師」として働いていくことが望ましいといえるのである。
 また、高齢化問題は、理容業に限ってのことではない。代表的な産業である農業においても、それは言える。担い手不足、事業収入などのあらゆる面で理容業と状況が似ているのである。農林水産省「農業労働力に関する統計」によると、農業就業人口の平均年齢は平成25年現在、66.2歳である。実際、日本全体でも高齢化率の上昇は止まらず、人口減少がすすみ、高齢化は深刻な問題と言わざるを得ない状況になってきているのである。
 それでも農業は現状を把握して、試行錯誤しながらも、着実に、活性化のためのシステムを構築しようとしている。それが農業の挑戦ともいえる「集落営農法人」である。集落営農法人とは、高齢化率が高く、かつ、経営規模の小さい農家が多い状況のなか、低コストで効率の良い営農システムを確立し、集落の活性化を目的として設立された組織である。それを、法人化で経理の一元化を図り、個別経営ではできない複数スタッフによる共同作業・共同経営をして集落で助け合っていこうという、農業活性化のための手段である。
 第一次産業の農業とサービス業の理容業とでは、単純に比較することは難しい。しかし、理容業も農業のように先見の明を持ち、問題点を解決するためのシステムを構築することで課題を克服するべきである。ここでは「法人」という言葉を一つのキーワードに話を展開させながら、高齢化問題を抱える今後の理容業の在り方と行く末を見出し、事態打開のきっかけだけでもつかみたいと思うのである。

本論  全国理美容NPO法人の可能性

 一般の勤労者には「定年」という制度があるが、理容師にはない。このことは「元気である限り、いつまでも働け、稼げる」という観点からいえば、自営業者の最大のメリットであるといっても過言ではない。一方、これから体力的に衰えていく理容師にとっては、店舗経営以外、あまりにも働き方の選択肢がないということがいえるのではないだろうか。
 高齢でも理容業で無理なく楽しく稼ぐためには、時給制・歩合制でもいいので、週何度か出勤し、趣味や社会奉仕・ボランティアなどの時間を作りながら働く、いわゆる「パート」のような働き方が理想である。しかし、理容業という性質上、免許制度なので、誰にでもできるものでもない。そのうえ、小規模店舗が多数を占めていて、家族経営が多い点からみても、一般社会と比べるとシステムが確立されていないという実状がある。働き方の選択肢を増やすためには、組織的に動き、理容師と雇い入れる側との両方のニーズに応える活動をすることが重要である。
 2013年5月、全理連は訪問理容サービスを推進するために「全国理美容NPO法人」を設立した。しかし、現在、訪問理美容サービスを扱っているものは乱立状態に近づいているといってもいい状況である。それは、当店では出張料をいただくせいか、問い合わせがあまりないし、私のまわりでは店舗を持たずに病院などを専門に回っている理美容師がいて、業務妨害できない状況だからである。そんな中でも、この「法人」の可能性はあるのであろうか?探っていくことにする。
 私は現在、店舗経営とともに、小規模施設ではあるが、2か所ほど休日を利用して「理容ボランティア」に行かせていただいている。その経緯は、ある施設の方が「不定期で来てくれていた人が来られなくなったから、カットだけでもいいので、できたら安価でしてくれないか?」という内容であった。祖母がお世話になった関係の施設ということや理容師法第六条の二に定められている「理容師は理容所以外において、その業をしてはならない」ということをふまえて熟考した結果、事業としての「訪問理容」というよりは「理容ボランティア」という形がいいのではないか?と思い、この選択をして、実行した。あれから十数年、この活動は今日まで、ずっと続いている。お年寄りから喜んでいただけるという、やりがいを見出せているので、今後も「生涯のライフワーク」として、みんなが喜んでくれる限り、私は続けていくつもりである。
 しかしながら、この選択は正解だったのであろうか?その当時、私自身は若かったので、施設やお年寄りのことを思って「理容ボランティア」という選択をした。だが、今にして思えば、自分が歳を重ね、体力的に衰えた時のモチベーションとして考えてみると、事業としての「訪問理容」という選択を取った方が良かったのではないか?とも思うのである。もし、この時に全国理美容NPO法人の仕組みが整っていたならば、どんな方向性のアドバイスを私にしてくれたのであろうか?
 このことをふまえると、高齢化を迎えるにあたり、生涯現役理容師としてのセカンドライフを充実させるための仕組み作りは重要である。その仕組み作りの一つの参考例として、わが町の取り組みを紹介しておきたい。
 わが町では、昨年三月に県70歳現役応援センター、町シルバー人材センターや社会福祉協議会、商工会議所などと連携し、60歳以上の方々の再就職などを支援する「セカンドライフ応援センター」をオープンしている。これは、専門相談員が各々のニーズに合ったセカンドライフの就業や社会参加を提案し、それを相談に来られた方々に活用してもらい、今後に役立ててもらうというものである。
 この取り組みに倣い「全国理美容NPO法人」を窓口に、応用することはできないだろうか?この法人が理容師と相手側の施設などとの仲介役になり、窓口となることで組織的に動くのである。行政などを利用し、両方のニーズに応える活動へと手を広げ、その仕組みを整えることによって、理容師のための働き方の選択肢を増やす役割を担うのである。
 例えば、地域の役に立つためにボランティアとして理容の技術を活かしたいのであれば「社会福祉協議会ボランティアセンター」に登録したり、仕事のやりがいや臨時収入的なものを求める訪問理容がしたいならば、人材を扱う「町シルバー人材センター」に登録したり、まだまだ新たな挑戦で就業を目指すならば、高齢者向けの求人の開拓をする「県70歳現役応援センター」に登録したりして、理容師との仲介役を引き受けるのである。
 もし、このように多様な選択肢の中から、それぞれの経験や技能・知識を生かすことができる進路を提案し、そのような支援をしてもらえる環境が整えられるのであるならば、今以上に組合加盟の理容師の価値観が上がることは間違いないのではなかろうか。
 しかし、これをスムーズに機能させるためには問題点がある。一つ目は、誰が動き、いかにして維持費を確保するか?である。NPO法人であろうとも、ある程度の運転資金は必要である。役員には報酬も認められている。誰かが動かなければならないので具体的な給与体系である「負担の平等と利益の公平な配分」は重要である。
 二つ目は、人材の確保である。当然ながら、地域を統括するリーダーシップを持った代表とそれを支える構成員のやる気と自覚は必要である。これに加え、担い手は都市圏に集中し、中山間地域では不足しているので、地方創生のためには「人材の分散」も必要である。
 いずれにしても、解決するためには、具体的な給与体系や規約などの施行細則を作り上げ、組織を機能させる人材と実際に行動する人員の確保が必要である。それをどうするか?人材については、プロフェッショナルを外部から招聘することが一番有効な手ではあるが、組合内には、まだまだ人材が眠っている可能性もあるのではないか?とも思っている。
 組合主催の訪問福祉理容セミナーを受講した、老若男女が入り混じり、全国随一の人数である「訪問福祉理容師」や何らかの理由で今は理容業を辞めている「潜在的理容師」などを活用するのである。その掘り起こしと将来の活躍の場の受け皿を作ることができれば、人材と人員の確保は可能なのである。
 また、中山間地域にある限界集落や離島などの「理容難民」とグループホームなどの小規模施設から総合病院などの大規模施設までの情報を入手し、活用することも重要である。NPO法人は行政より柔軟な対応が取りやすいので、福祉の面でも重宝されるといわれる。もし、行政はもとより、全国の医師会や社会福祉協議会、介護福祉士会などの社団法人、および各地域の在宅支援センターなどとの情報提供・支援・業務委託提携が獲得できるのであるならば、全国理美容NPO法人は組合に加盟している理容師のセカンドライフや訪問理容の充実に欠かせないものになる可能性を秘めた「法人」になるのではないだろうか。
 また、地域ごとに普及モデルとなる組織を育成・選定すれば、一つの組織を核に、他地域にも広がる可能性があるのではないだろうか。
 これより、さらに発展した「理容業の未来像」として大きく関わってくるものが「ソーシャルビジネスとしての理容業の可能性」である。ソーシャルビジネスとは、社会問題の解決を目的として収益事業に取り組む事業体のことである。従来の福祉からも従来の営利企業のサービス対象からもこぼれ落ちた分野に特化した事業展開を行うことで事業を成立させるものである。
 今後ますます病院や介護施設の理容業に対するニーズが増えることは間違いない。入院施設を備えている病院には理容設備を整えているところも増えてきていると聞く。使いやすい設備であれば、お客様は施設にいながら、店舗に似た体験ができるのである。全国理美容NPO法人には、きちんと理容師が使いやすいような設備を普及・推進させるアドバイザー的な総合コンサルタント業務も期待できる。そのアドバイスにより、高齢化などで廃業した店舗などの設備をメーカーと協力し、未設置の病院や介護施設に設置することで、その可能性はますます広がっていくのである。

結論 担い手不足を補うための今後の展開

 それとともに、地域の経営の一元化により、例えば現在の組合のように、地域で分散している熟練した技術を持つ者同士が結集し、理容店を一つにまとめて法人化することも将来的にはありうることである。なぜなら、業界振興のためには、今以上のシニア戦力の活用が必要なことであり、複数人になることにより、暇な時には店舗を任せて、誰かが営業中に訪問理容などに行くことも可能になるからである。理容業も農業のように模索していくのであれば「集落営農法人」ならぬ「集落営理容法人」を作っていっても不思議ではないのではなかろうか。極論を言えば、地域でまとまって、組織的に展開しながら、全国理美容NPO法人の活用とともに、ヘア産業の効率的な集合体を作ることができれば、理容業の明るい未来像は自然と描けるのである。
 その理想の形を支えるのは組合員であるが、現在、組合員は減少の一途である。その要因の一つには、高齢になり、収入に対する組合費納入への負担の割合が増え、それが組合の脱退につながるということがある。福利厚生を楽しみにしていた方が、仲間が減ったのを機に、特にこのような状況になるようである。若年層だけでなく、今いるシニア層に対する対策も必要なのはわかっているのだが、個人だけでなく、支部組合、県組合でさえ、財政不足が深刻になりつつあり、組合からのこれ以上の支援は期待できないのが現状である。
 今後、いかにして「組合に対して、理容業に対して『可能性』を見出せるか?」が、これからを作っていくことは間違いない。若い者に道を譲らなければいけないことはわかるが、組織力向上のためにはシニア層の参加も不可欠である。特に平均年齢が上がっている今、シニア層がまとまって別の道を作ってもらわないと存続自体が難しい状況になってきているのである。一人ひとりを繋ぎとめるために、特に福利厚生にはシニア層自身が積極的に関わっていただきたいのが本音である。
 65歳以上の夫婦二人の月の標準生活費は約26.9万円といわれ、ゆとりある老後を迎えようと考えているなら、それ以上である。たとえ四十代であっても、生き方が多様化してきた現在、それぞれに合ったシニアライフプランについて、早い段階から意識し、考える機会作りもこれからは必要である。組合から提案されるサポートを受けるだけではなく、自分自身でいろいろな視点に立ち、アプローチをかけて今後に展開していく。その能力を身に着けていくことを各個人が意識することで、組合の存在価値を見出せるのである。
 あなたは理容業の、私たちの安定した未来を想像していますか?明日へ向かって、確かな一歩を踏み出せていますか?

 

主な参考文献
おおいた集落営農マニュアル
かんだセカンドライフ応援センターのしくみ

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