平成26年度業界振興論文・最優秀賞

ファッション誌に見る理容業再生のヒント

梶川 満(鳥取県組合)

 

 目次

 はじめに

 1.床屋・理容店イメージを考える

 2.BARBER SHOPというカテゴリ

 3.おわりに「バーバーショップの作り方」

 

はじめに

 アベノミクスのおかげか、長引くデフレからやっと脱出のきざしが見えてきたこの頃だが、我が理容業界は未だ厳しい状況から抜け出せないでいるようだ。
 理容師の平均年齢が65歳と言われ、理容科への入学生は美容の一割以下、理容国家試験の合格者も680人程という危機的状況になっている。
 このままでは私達が愛する理容業はどうなってしまうのだろうか。近いうちに絶滅危惧職種になってしまうのだろうか、あるいはすでにそうなってしまっているのだろうか?
 そんな厳しい状況の中で全理連は、理容師にしか出来ない技術としてシェービングを重視し、顔剃りエステに特化した業態の開発や、女性理容師を対象にしたエステティシャンの育成を始めている。
 そして高校の課外授業として理容の体験学習も行われている。そんな中、フランクフルト世界大会での金メダル獲得という明るいニュースもあり、やれば出来ると私達を元気づける快挙もあった。
 更に最近、業界外から思わぬ援軍があった。それは若者向けのハイセンスな雑誌や、テレビ番組が、おしゃれな理容店を好意的に取り上げてくれたことである。特に「The Barber Book」という雑誌は、国内外のセンスある理容店をバーバーショップという視点で取り上げ、これまでの理容=レトロとかノスタルジックな店という視点とは異った新鮮な編集となっている。
 この追風を受けて、私達はこの厳しい現状を抜けださなければならないが、本論では、私達が作り上げてしまった床屋や理容店のマイナスイメージはどこから来たのかを解明しつつ、床屋でも理容店でもないバーバーショップという新しい形態を考え、魅力ある理容業作りの一助としたい。

1.床屋・理容店イメージを考える

 何故バーバーショップというスタイルが若者の注目を浴びるようになったのか、何故ハイセンスな雑誌が、バーバーショップを後押しするようになったのかを考察する前に、若者達が見放してしまった床屋や理容店イメージはどういうものか探って見たい。
 日本の理容の歴史は、明治維新と共に始まった。欧米列強の武力によって開国をさせられた我が国の最大の課題は、欧米との不平等条約を改め、植民地となることを防ぐことだった。そのため日本人は文明開化を進め、国際条約を守ることの出来る人間であること、野蛮人ではないことを証明しなければならなかった。そこで日本の男達は、ちょん髷を切り落し、刀を捨てなければならなかったのである。
 その頃の男達が見習ったのは、七つの海を支配するといわれた大国、英国の紳士だった。
 当時の理容の先覚者達は、理容は紳士の正業であると規程し、自らも紳士でなければならないとした。
 店は舶来の鏡や椅子、調度品で整えられ、理容はハイカラな職業となり、理容師はファッションリーダーとなった。
 理容業はこのように志高く始まったのだが、どうして今日こんなに人気の無い職業になってしまったのだろうか。
 一つには理容店は地域のサロンという性格を持ち、多くの男達が政治からゴシップまで語り合う場所であると共に、囲碁や将棋を楽しむ場所でもあったことである。
 筆者が子供の頃は、父の店でもこんな光景が見られたものであった。また多くの店が家族経営であったため、店と家庭との境界線があいまいになり、店というハレの場に、日常というケが混ざり、生活感のあふれる店になってしまった。また経済の成長によって物が豊かになると、様々な様式の物があふれ、一つのスタイルで店が統一されるということは失くなってしまった。これは理容師自身が職人気質が強く、インテリアとかデザインにうとかったこともあるだろう。
 また昭和四十年代には、前洗面と電動椅子が普及し、多くの店は仕事の効率化のためにそれ等を鏡とセットで揃えることが普通になった。そしてどの店も同じような設備、造りになり、全国どこへ行っても金太郎飴のような店となってしまったのである。
 前者の店はノスタルジックやレトロとの視点で、後者のタイプは昭和的としてテレビ等に取り上げられることが多い。
 そのため多くの人が、このようなイメージを嫌い、美容的な店へ移って行ったのである。
 もう一つは、現在私達に最も大きな打撃を与えている低料金店である。
 彼等は徹底的なコストカットで効率を最大限に高め、10分千円という料金を実現している。
 かつて、ミヒャエル・エンデの「モモ」という児童文学の名作が話題となった。
 その中の準主役とも言える登場人物に床屋のフージー氏がいる。
 その彼にある日、時間貯蓄銀行から来たという灰色の男達がささやく。「一人のお客様に一時間もかけないで十五分で済ますこと、ゆっくり食事をしたり、年老いた母親とおしゃべりすること、ペットのインコの世話、映画を見に行くこと…etcは無駄だからやめること」と、これを実行したフージー氏は益々時間に追われ、心の豊かさを失ってしまう。そこで少女モモは時間泥棒から時間を取り戻す冒険の旅に出る。これは’73年に出版された本だが、40年後の現在、市場原理主義が支配する低料金店の現実を予言しているかのようである。
 このように理容という仕事は、歯車の一部として働き、10分千円で出来るもの、というイメージが出来上がってしまったのである。
 以上のようにハイカラなイメージでスタートした理容業は、古臭く生活感あふれる床屋像、全国どこでも前洗面、電動椅子で同じになってしまった理容店像、そして効率だけの殺風景な低料金店像が重なって、理容業界全体が夢も魅力もない職業との印象を、多くの人が持ってしまったのではないだろうか。

2.BARBER SHOPというカテゴリ

 そのように理容業のイメージが低下する中で、若者向けのハイセンスな雑誌では、理容店がバーバーショップという新たなカテゴリで紹介されるようになった。
 特にエイ出版の「The Barber Book」というムックでは1巻から2巻にわたって、多くのユニークなバーバーショップが紹介されて人気を集めている。編集者も「こんなに早く2巻目が出せるとは」と驚く程だったという。
 何故出版社がバーバーショップにこだわったかというと、先述の床屋、理容店、低料金店の、どれとも違うカテゴリであることを強調したいからだろう。
 それでは彼等がいうバーバーショップとはどのような店なのだろうか。「TheBarber Book」を見ると、そこには多くの個性的な理容店が載っているが、それ等に共通しているのは、店主や経営者のコンセプトやこだわりが強く表現されているところである。それは店舗のデザインとして、エクステリアやインテリア、それにウィンドウディスプレーや、店名のロゴ、看板等に表現され、全体的に統一されたイメージを出している。これは昔はCI(コーポレート・アイデンティティー)、今日はブランディングと言われるものだろう。
 技術やメニューは他店と大きく変わらないが、表現する世界が、アーリーアメリカンであったり、アールデコや、フィフティーズであったり、男が男らしくダンディであった時代であるのが共通しているようだ。全体的にアメリカ的な店作りが多いのは、アメリカ文化の影響を受けた経営者が多いせいかも知れない。
 以下、「The Barber Book」の編集者への電話インタビューを記す。
 筆者がQ、企画編集したS氏をAとしている。
Q.これまで理容店がレトロとか昭和的という視点で「古き良き時代の遺物」として雑誌に取り上げられることはありましたが、オシャレの最先端として取材されることは画期的です。どうしてこのような企画をされたのでしょう?
A.アメリカに行く度にカッコイイバーバーショップをよく見かけるんです。そこでこういう店を日本に紹介したいと思っていたのです。
Q.日本の場合、理容店ではなく、「バーバーショップ」という括りにされたのはそういう意味があるんですね。
A.はい。これは2ndという本の企画なのですが、2ndはアメリカ文化を紹介するというのが一つの柱になっていますから。
Q.どうしてこのような店をカッコイイと感じられたのでしょうね。
A.今はクラシカルなヘアスタイルが流行っていて、美容師にも理容の方がカッコイイという人が多くいました。私も理容のカッコ良さを知ってもらいたいと企画したのです。
Q.そのカッコ良さはダンディズムを満足させるという意味でしょうか?ファッションを追いかけるのではなく、スタイルを持った大人が行きつけの店を持ちたいというような?
A.ハイ。若い時は流行を追いかけ美容室に行ったりしますが、大人になると少し恥ずかしい、どこかにオシャレな理容店がないかとなりますからね。そのような人のためにお役に立ちたいというのもありました。
Q.髭剃りなど、男が男であることを確認する儀式のようでカッコイイですからね。ユニセックス店と違ったストイックさも魅力の一つでしょうね。
A.ええ、男性専科的な店や、インテリアを主体にしたのはそういう意味もあります。理容師さん自身が、バーバースタイルのカッコ良さに気づいて欲しいですね。
Q.そうですね、美容はボウタイや丸メガネで仕事したり、古い物で遊ぶというのは難しいですからね。やっと理容…いや、バーバーショップの時代が来そうです。ありがとうございました。

3.おわりに

 「バーバーショップの作り方」

 本論1では古く生活感のあふれた床屋像、全国同じ顔となった理容店像、そして殺風景な低料金店像が、理容業のイメージを低下させたことを解き、2ではそれ等を超える理容業の形態として、バーバーショップ像が現れたことを説いた。
 それではバーバーショップはどう創れば良いのかという疑問が出るかも知れない。しかし残念ながらそれはこういうモノですとモデルを提示することは出来ない。それは各々の理容師が自分で考えデザインするものであるから。しかしヒントはある。
 「The Barber Book」に登場する店や人を見ると、彼等は広義の数奇者ではないかと思う。数奇者とは茶人とか風流人と解されるが、彼等は単にお茶を点てるだけでなく、茶室や庭を設計し、茶道具の選定から掛軸や生花、それに菓子で季節を表し、自分の感性、美意識で客人をもてなす術を持っている人である。
 理容師にあてはめれば、快感技術のみならず、店の外観からアプローチ、椅子や調度品の選定だけでなく、インテリア、生花や観葉植物、照明、音楽、香り、会話まで、お客様と過ごす空間と時間をデザインし、お客様の五感を満足させる人となるだろう(味覚は難しいが)。
 技術の習得、練磨は、理容師にとって欠かすことの出来ない条件だが、そればかりではお茶の点て方のみを練習している茶人のようなものである。数奇者のように総合プロデューサー的な立場で、理容業に取り組まなければならないと思う。
「The Barber Book 2」の表紙には「スタイルを持った人は理容店が気になっている」とある。
 あらゆるファッションを消費した団塊世代も熟年となり、団塊ジュニアも自己のスタイルを確立する年代となった。
 エイジングケア等のメニューの充実と共に、スタイルを持った大人のための、スタイルを持った店創りが必要になっている。言葉を代えれば、各店のスタイルの無さが理容業を衰退させたとも言えるだろう。
 ロケット工学の草分け的な存在だった糸川英夫博士は、「理容業の未来は」と問われて「理容業が情緒産業である以上、未来はバラ色です」と答えられたという。
 私達は今こそ自分の中の数奇(こだわり、感性の主体)を見つめ、ポップで明るい店からストイックな紳士専門店etcまで、自分に合ったスタイルを見つけ、五感を研ぎ澄まし、心地良い空間と時間を提供する、情緒産業としての理容店、バーバーショップを創り、バラ色の未来を目指さなければと思う。

 

主な参考文献
2nd The Barber Book l.2(エイ出版社)
ザ・セントラル(中央理容美容専門学校)
モモ ミヒャエル・エンデ(岩波書店)

 

審査講評 
審査委員長  尾﨑 雄(生活福祉ジャーナリスト)

 広い意味でのファッション誌は新しい生き方、つまりライフスタイルを具体的な姿かたちで示して提案し、感度の良い消費者と事業家はそれを受けいれて自らを表現し、大衆はそれにならう。そんな相互作用が市場を活性化する。
 今回の応募作品には、そうした刺激を備えた雑誌「The Barber Book」にヒントを得て男のライフスタイル感覚の変化に焦点を絞り、理容業の明日を切り拓こうとする最優秀候補作が競い合った。梶川満氏(67歳)の「ファッション誌に見る理容業再生のヒント」と野上学氏(27歳)の「理容-男を磨く仕事」である。甲乙つけがたいものの、梶川氏の高齢を感じさせぬ時代を見抜く鋭敏な感覚を多として最優秀に選んだ。
 業界の未来は過去のアイデアの蒸し返しや成功事例の延長線上にはない。「各店のスタイルの無さが理容業を衰退させた」と指摘、「スタイルを持った大人のための店創りが必要」というメッセージを組合員は謙虚にうけとめるべきだろう。

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