平成20年度業界振興論文・最優秀賞

団塊の世代の店主さんへ

都築 りえ子(愛媛県組合)

 

一、前書き

 本年三月三十一日付け、地元新聞コラムよりの抜粋・引用「新しい世代にバトンを託し高度成長期以降の世を築いてきた人達の多くが、きょう定年を迎える。七百万人とされる団塊の世代の大量退職の二年目。玄関を出る足取り、通勤路の風景、見送る家族、どれも特別にちがいない」・・・
 最近、良く耳にする団塊世代の理容師の方々のボヤキともとれる言葉の数々!「俺は、もう終わった」「今のカットは、よう解からない」「子供(後継者)は、いるけれど今の状況では店を継いでくれとは言えない」等々、このままでは、理容業界も大量廃業の危機かもしれない。

二、理容業界の現状

1、業界の現状

 バブル景気の後、「鍋底景気」等と言われる不景気が十数年以上も続いているのが現実です。そんななか、日々生活に追われ愚痴をこぼし、周りを見る余裕すら忘れているのかもしれません。この不景気の風が吹き始めた頃に、対策・対応を講じてきた立派な経営の店舗と、そうで無かった店舗との差は歴然たるものがあります。カリスマ美容師の出現により、多くの若者は美容室傾向に、そして高齢の方達は低料金店に流れて行きました。
 何かをしようともしないで、大幅な収入減に眠れぬ夜を過ごし、受け入れ難い現実に翻弄されているのかもしれません。若い理容師さん達が新しくお店をオープンさせ、がんばっている中で時代に置いていかれた団塊・世代の店主の方々が多いのが、この業界の現状です。

2、団塊の世代の責任

 今年五十六才になった私は、妻であり母であり理容師免許を有する家族従業員です。
 「もう、自分達の時代は終わった」が口癖の夫を含めた多くの団塊・世代の店主の方々から「自分は職人だから。自分は職人気質が強いから」と言う言葉を良く聞きますが、貴方がたは、理容業という事業所の事業主である事を忘れてはいませんか?
 「自分は、もう歳だから」「後継者もいないし」「まぁ平平凡凡と日々を過ごしていければいいし」等と考え、気が付けば、お店には古いポスターを貼りっぱなしだったり、お店の清掃が手抜きになっていたり、やる気が有るのか無いのか、惰性で仕事をしている様に見られて来たのでしょうか。
 大森利夫氏が全国の理容師の代表となられた時に掲げたスローガン「やる気!勇気!元気!」の、やる気と勇気を何処かに置き忘れて来た結果が、長年に渡り続く不景気に対応出来ず、元気になれないで現状に喘いでいるのではないでしょうか?新しい技術に興味を持ち、新しい人との出会いを楽しむ事に前向きになれないで苦しんでいる店主の方々は、今、何が必要なのか?自分に足りていない物は何なのか?時代という波に乗り遅れているだけではないのか?新しい技術に背を向け認めず、それなのに十分に気になって仕方が無い!しかし、聞く勇気も無い。プライドは大切ですが、かたくなに意地を張っていては、いけないと思うのです。ある意味で理容業界の現状を作ってしまったのは、他ならない私達、団塊の世代かもしれません。新しいお客様にも、馴染みのお客様にも来て頂ける「魅力」有る理容店でありたいものですし、そうしていく責任が有る事を忘れてはいけないのです。

3、低料金店との比較

 安心・安全!何か食料品みたいですが・・
 私達、組合加盟店は、衛生面・技術面・接客態度等に、日々、努力精進しお客様、お一人お一人の状態を理解し要望を叶えられる技術を持って対応し、少しでも満足して帰って頂けるお店だと確信しています。
 それに対し人数だけこなし髪の毛は、ただ短くなってさえいれば良いのが低料金店ではないかと考えています。では単に料金が安いというだけで、お客様は低料金店に流れて行くものなのでしょうか?私達、組合加盟店に足りていない物は何なのでしょうか?
 若かりし頃には何事に対しても有った「どんよくさ」或いは「積極性?」でしょうか。
 安心は、もしもの時に組合の保険等で対応できますし、安全は毎年繰り返し行う「衛生順守運動」の消毒・衛生や確かな技術で応えられます。そういう部分も、お客様はじめ社会に対して今以上にアピールして行かなければと思います。休日に低料金店、通称・安床の前を通ってみて感じる事の一つに照明が有ります。無駄とも思える程に明るいのです。
 つまり、活気に溢れている様に見えるのです通常料金で普通の照明でも活気が失せた様に見られる組合加盟店と、一見、無駄に思える程、明るく活気に溢れた様に見える低料金店を比べれば結果は明らかです。低料金店に無い付加価値を講習会等で身に付け、来て頂いたお客様に自分の持てる最高の技術を持ってひとときの安らぎを感じて頂き、会話を楽しんで頂く、趣味の話題も大切でしょうし、時には愚痴を語り合ったり、そして綺麗になって気分もサッパリして帰って頂ける。そんな当たり前の事を忘れて嘆いていても何も始まりはしないでしょう。

三、提言

1、意識改革

 団塊の世代の理容師さん達と、お話していて、何時も感じる事があります。
 例えば、講習会がありますが行きますか?と聞きますと帰ってくる答えの8割位、或いはそれ以上かもしれません。「もう、ええわい行かない」「孫と遊ぶんよ」「手も痛いし」「身体の調子も悪いし」「うちの店には関係無さそうだし」「今更、新しいカットでも無いし」等と、会話の始めに、まず否定する事から入るのです。消極的?という言葉では済まされない、自分の仕事に対して無関心すぎる様に思えます。我が家での会話も同じ様なものです。例えば「この商品、店販に入れてみようか?」と私が言えば夫は「好きにすれば」と答え「最近、暇すぎるね」に夫は「何処も似たようなもんよ。うちだけじゃ無いよ」と無関心・・・「ここ変えてみる?」に夫は「よせよせ、無駄な事はせんでもいい」と消極的・・・多くの店主の皆さん、ご自分と重なりませんか?このままではいけないと思いませんか?まず、気付いて下さい。それが、意識改革!「やる気!」の第一歩だと思うのです。

2、行動

 休日に街に出掛けてみて下さい。若い人達の服装・ヘアスタイル等に関心を持って下さい。先日、所用で土曜日曜と大阪に行きました。ファッション・ヘアスタイルという点で大阪の若い人達と私の地元の若い人達の間に「差」は殆ど感じませんでした。
 自宅に戻り、共に理容師の息子に聞きましたら「四国の技術は、かなり進んでいるよ」と教えられました。自分自身、息子が練習している所を見たり、或いは講習会で学んで来た事等を聞いていて解かっているつもりでしたが、まさに「百聞は一見にしかず」でした。貴方はどうですか?まず、講習会に出掛け、若い理容師さんに聞きましょう。「この、ヘアスタイルのポイントは?ここは、どんな風に鋏を入れたら良いのか?」って。聞くは一時の恥じ知らぬは一生の恥じ、とか言うじゃないですか。当たり前を当たり前としないで今の自分に出来る事からでも良いのです。
 お店の隅々に気を配り、古いポスターは新しい全理連のニューヘアに張り替え、視力が落ちて眉間にシワが寄っているなら、思い切って老視用のメガネを掛けて、来て頂くお客様に不快感を与える事のないように。組合員それぞれが、努力し切磋琢磨し活気ある事業所理容店になりましょう。それが、行動を起こす事「勇気!」の第一歩だと思います。

四、まとめ

 髪は日々、自然に伸びて来ます。景気・不景気に左右されないはずの、この業界のはずです。生涯現役と胸を張って言えるはずの理容師なのです。「もう、店をたたもうか」等と悲観的な事を言わないで、身体の続く限りお店を開けて、鋏を・剃刀を持ち続ける気力!を持つ事だと思うのです。
 「やる気!」と「勇気!」を持って「元気!」になって下さい。そして後継者がいなくても新しく理容師を志す若い人達に、バトンをしっかりと渡しましょう。子供は親の背中を見て、お弟子さん達は師の背中を見て育ちます。先を歩く私達が「元気!」で背筋をピンと伸ばした後姿を見せないでどうしますか。
 今の貴方の背筋はどうですか?実年齢以上に丸くなっていませんか?私達の業界は年齢不詳が当たり前だと思っていますが「自分は、もう年金を貰っているよ」等と話していては、お客様はどう思うでしょう。「結構、歳なんだ、大丈夫かな?」と不安を与える事になりませんか?
 最後に、これも同日付けのコラム(地軸)から引用、団塊の一人、吉田拓郎氏の歌を
 「今はまだまだ人生を語らず 目の前にも道はなし 越えるものは すべて手さぐりの中で 見知らぬ 旅人に夢よ多かれ」(人生を語らずより)。同じく本年、四月九日付けのスポーツ報知及びロイター通信より抜粋・引用、法華津(ほけつ)「じじの星」改め「じじいの星」に、生涯現役宣言!日本五輪史上最高歳の六十七歳で北京五輪に出場する法華津氏の会見より

 ・・馬術競技を長年続けてきた理由は・・

 「一番は馬が好きだから。自分でも日々少しずつ上手くなっている感じを持てることが、モチベーション。多少、肉体を維持する努力をすれば、この歳でも技術的な進歩はありうる。年を経るにつれ、馬術への気持ちは、もっと熱くなっている。もっと夢中になって来た」・・・団塊の世代の店主さん達へ
 法華津氏の言葉を理容に置き換えてみて下さい。理容という仕事をもっと好きになって下さい。きっと新しい何かが見えて来るはずです。一時代を築いて来た多くの理容店主さん達、四十五十は鼻垂れ小僧、六十でやっと一人前と、亡くなった舅が良く言っていた言葉です。団塊の世代と言われる年代になった今が本当の一人前ではないでしょうか?
 時間と共に、変わり行くもの・変わらないもの・守るべきもの・捨てていくもの、貴方にとってそれは何でしょうか?まだまだ道の途中・夢の途中のはずです。「自分は、もう終わった」等と考えないで、後に続く人達に、しっかりバトンを渡すその時まで、どうぞ「元気!」でいて下さい。
 家族従業員からの、たくさんの思いを込めた提言です。

 

※参考・引用文献
本年、三月三十一日付け地元新聞コラム(地軸)より、抜粋・引用
同、四月九日付け、スポーツ報知
ロイター通信より、抜粋・引用      

 

審査講評
審査委員長 尾﨑  雄 (生活福祉ジャーナリスト・元日本経済新聞編集委員)

今のような理容界にしてしまったのは誰か

 奥さんに「あんた、シッカリしてよ」とハッパをかけられたような読後感だ。全理連組合員の平均年齢は約60歳。団塊の世代の平均年齢である。理容店主の多数派世代に向けて、筆者はこう語りかける。「若い理容師さんたちが新しくお店をオープンさせ、がんばっている中で時代に置いていかれた団塊世代の店主の方々が多い」と。返す刀で「貴方がたは、理容業という事業所の事業主である事を忘れてはいませんか?」と畳み掛け、理容業界を「今のような現状」にしてしまったのは、ほかならぬ団塊の世代かもしれないと苦言を呈する。
 「お客様に自分の持てる最高の技術をもってひとときの安らぎを感じて頂き、会話を楽しんで頂く、趣味の話題も大切でしょうし、時には愚痴を語り合ったり、そして綺麗になって気分もさっぱりして帰って頂ける。そんな当たり前の事を忘れて嘆いていても何も始まりはしないでしょう」。耳が痛いが、その通りだろう。かつて団塊の世代は問題児といわれながらも、各界で新たな価値観やライフスタイルなどを創造してきた先駆者世代だったが、気がつけば、会社員なら定年の年齢に。さいわい、理容師は会社員と違ってハサミと剃刀を手放さない限り生涯現役で働ける。愚痴や諦めはやめ、背筋を伸ばして前に進んではどうか。そんな力強いメッセージにどう答えるかは団塊の世代自身の問題だ。読みやすい文章なので元気を失いがちな“思秋期”の店主に一読を勧めたい。