平成19年度業界振興論文・優秀賞

組合員の繁栄に向けて ~カギは広報活動にあり~

高橋 正興(北海道組合)

 

一、はじめに

 いつの頃か出版業に携わる人たちの間に、「サンヒク」という言葉が強調されたことがある。サンヒクとは「目を引く、気を引く、興味を引く」という意味で、出版業界では編集でも、印刷でも、店頭陳列でも、いつもこのサンヒクを念頭にハッパがかかったらしい。

 年間に出版される刊行物は何万点にものぼると言われるが、その店頭に溢れる膨大な刊行物の中から、読者に選ばれ金を払って読んでもらえるチャンスは、そう多くはないはずである。この刊行物の洪水の中にあって、どうすれば私たち組織の広報紙が、組合員の関心を捉え皆さんに読んでいただけるかは、この役職に携わる者にとっては最大の関心事であろう。短い期間ではあったが、私にもその経験がある。

 かつて、私の調べたところでは、われわれ組合員で配られた広報紙に必ず目を通すという人が、意外に少ないのでその理由を尋ねると、広報紙は「読んでも面白くない」「一方的なものばかり」「固いことばかり書いてある」などの意見を多く聞かされた。

 確かにわれわれの広報紙に限らず、労働組合や政党の広報紙でも「読んで楽しい」とは言えないものが多い。しかし、発刊の目的からして各広報紙にはその組織に属している以上、見過せない貴重な提言、情報が多く含まれているはずだ。全理連広報紙「理楽TIMES」及び各組合広報紙もしかりである。

 一方、IT時代とやらでとにかく印刷物を敬遠する若者の「活字離れ」が取り沙汰されているが、それを超えていかに広報紙に関心を抱かせ、かつ多くの組合員の方々にお目通し願えるかを念頭に、ささやかではあるが考察を試みたい。

 

二、広報紙への関心

 外国のことわざに『ペンは剣よりも強し』というのがある。辞書には「文は武よりも強い事」とあるが、これをもじって理容業に置き換えると『ペンは技術よりも強し』となるまいか。もちろん、われわれの業種は技術が主体だから技術の研鑽は欠かせないが、ペン(広報など)から学ぶことも軽視できない。それはそのことが広い意味で個々の繁栄および業界の発展へとつながって行くと思えるからである。

 ところでわれわれ都道府県組合の広報紙はさておき、組織全体を統べる全理連発行の広報紙は、組合員にいかほど読まれているのだろうか―。確かめるべく全理連に問い合わせたところ「連合会では各種の業態調査は行っているが、残念ながら当件に関しての調査は実施されていない」とのことだった。

 毎年、全国四七組合の広報担当理事が全理連に集まり広報委員会が開催されているが、平成一六年度の席上で、この件に関連してある県の理事から「より読まれる広報紙について」の問いかけがあったのを、当時、出席していた私の記憶にいまだ残っている。

 また、試みに平成一九年三月、私の属する北海道組合恵庭支部員(三二名)や、近隣支部役員等に聞き取ったところ、期待したような芳しい数字は出てこなかった。その一方、「日刊一般紙」には、毎日欠かさず目を通すという方がほとんどであった。

 むろん、この聞き取りにおいて、大方がわれわれの広報紙(全理連・道組合・支部だより等)に全く関心を示さないということではなく、その記事に大きな期待を抱き、毎回目を通しているという方々も少なからずおられたのも事実である。

 さて、これは推測であるが、われわれ仲間が広報紙に関心が低い理由の一つとして考えられるのは、通常、広報紙のたぐいは紙代を直接払うのではなく、あらかじめ会費等に含まれているので、無料配布的な安易さから「必ず読む」という意識が薄れているのではないかと思われる。他方、新聞などは購読料を直接払うというほかに、自分が「興味を持つジャンルが載る」ということも少なからぬ要因なはずで、私はこれが第一と考える。

 日刊一般紙の紙面は、政治、経済、スポーツ、娯楽、芸能、地域、コラムなど、内容も多種多彩だし、読む順も各々興味が違うのでおのずと変わってこよう。私の場合、まずおくやみ欄を広げ、次いで政治面と続く。妻はテレビ案内、次に社会面のようである。

 そうした観点から、われわれ広報紙も組合員の方々に、進んで手にしていただく工夫として、一点でも多く「これは毎回読みたい」と関心を抱かせるジャンルを、紙面に定着させることが最も大切ではないのか!

 確かに万人に興味を抱かせる“掲載物”は、言うに易いが、これは難問で、私も思いばかりが先立って空回りしていたことを思い出す。

 しかし平成一九年四月から「全理連」紙が「理楽TIMES」とタイトルを変え、内容もかなり変化してきている。そうした中ではあるが、より読者を増やす方策を探求してみたい。

 

三、読み手の心をつかむ

(1)本願は目玉商品の横

 ここで理容業とは業態が全く違うが、読み手の心理にもつながると思えるので、一例として目的の商品を売るため、あらかじめ設定される一種の心理的手段を、大手家電流通業界から学んでみたい。

 よくスーパーなどの売り出し広告に、人の目を引くように格安の「目玉商品」が載っている。店ではこの売り出し期間中、最も力を入れて売りたい商品、例えばそれがテレビだと仮定すると、安値の目玉商品を謳っているテレビのすぐ横に、本当に売りたいテレビを陳列する。客が目玉商品のところへ来ると、店員はさりげない調子で「このテレビは確かにお値打ち品です。しかし、横にあるこのテレビは多少値は張りますが、さらにお買い得です。なぜなら、機能がこれほども違います。ぜひご検討下さい。」などと、本当に売りたいテレビに客の関心を引き寄せる。要はその場にいかにして客の足を運んでもらえるかが勝負で、お客の一〇人中八人は後品を買う、という。その上で「これは商売の常道です」とその業界の関係者は打ち明ける。

 これをわれわれの広報紙を手にしていただくための参考にしたいと思う。本当に売りたい品物のそばに目玉商品を置く。広報紙を手にしていただくための目玉記事、読みたくなる広報紙。結果それは紙面への求心力、組織力の強化、そして個々の繁栄へとつながっていくのではないだろうか。

 (2)楽しめる紙面づくり

 では組合員の方々に、毎回、手にしていただける広報紙の内容は何が考えられるか…。

 例えば、全組合員向けの広報紙「理楽TIMES」の場合。広く全国に点在する組合員方から、地元の隠れた観光スポットや郷土料理の紹介記事などを募集し、載せる。旅行好きな日本人にとって全国から寄せるその情報は、読む人に必ずや興味を湧かせずには置くまい。と同時に、投稿者には間接的に紙面づくりに参加しているという、満足感も達成でき得よう。あるいは「パズルクイズ」を提供する。読者は毎回の出題に頭をひねり、回答を全理連に寄せる。正解者には抽選によって、ささやかでも景品を送る。それによって、広報紙にさらなる親近感を覚えるのではないか。

 さらに毎月の組合員数の増減とその理由を全国八協議会別に載せるというのはいかがなものであろうか。日頃、組織の安定、向上を願う方々はその数値に少なからぬ興味を抱くはずである。組合員の減少というと、ややもすれば組織に魅力や価値が感じられなくなったために離れて行くと思われがちだが、案外多いのが転・廃業による退会である。

 全理連最新の「平成十七年度組合員増減調査の集計結果」(『全理連』紙平成一八年八月一日付)によれば、同年度の脱退者は三、五一一名で、うち転廃業によるものが一、五六五名、中でも六〇歳以上が一、二四四名と、全体の八〇パーセント近くを占めるに至っている。ちなみに、同年度の組合員数の増減は、三、〇九四名の減となっているが、ある意味これらの数値は十分注目に値しよう。

 次に、冒頭でわれわれ仲間が組合広報紙を積極的に手にしない理由の一つに、「固いことばかり…」を上げたが、相当以前、これと逆行するような小文が「全理連」紙に六〇〇字前後のコラム(月刊泡談)として載っていたことがある。

 昭和六〇年一月一日付から、平成三年二月一日付までの六年間で、書き手は小生ゆえ、いささか手前ミソで大変恐縮だが、参考までにそのうち多少反響のあった二点を「全理連」紙の縮刷版から挙げてみたい。

 字数の制約上筋書きになるが、まずは昭和六三年一二月一日付からのコラム「巨匠」から。―ミケランジェロが、注文の彫像を彫り終えた時、依頼者が下見に来て「鼻が少し高すぎる」と注文をつけた。ミケランジェロは、こっそり一握りの大理石の砂を持って足場を上り、あたかも彫像の鼻を削るかのような仕ぐさでノミを動かしながら、砂を少しずつ落す。ややあって足場から降り、重々しく「これでどうでしょう」と聞く。依頼者は「ウン、大変よくなった」と満足げに帰って行った―。という小話である。この結びは、 〝先の依頼者のような人が、今もわれわれの身近にいそうな気がしないでもない。時代を経ても人間の精神の構造は変わらぬもののようである〟とした。

 次に平成二年七月一日付の「盲導犬」から。―ある愛犬家が生後間もない盲導犬を訓練施設から預かり育てる。飼育に当たっては散歩の時も走らせない、他の犬が吠えても無関心で通り過ぎさせるなどの約束事はあるが、家族の一員として愛情一杯に育てる。委託期間が終わり、引き取られてゆく別離の悲しみ。数年後、思いがけなく繁華街で立派な盲導犬に成長したもと愛犬を目にする。思わず胸が高鳴るが、手もとを離れた盲導犬に声をかけることは許されない。気付かぬ体を装い足早にすれ違い。そっと振り向くと何とかつての〝愛犬〟も歩みを止め、こちらをじーっと見つめている。〝育ての親〟は逃げるようにその場を去ったが、涙が溢れるのを堪えきれない。再び振り返ると、とぼとぼと歩き出した〝愛犬〟もまた振り向きつつ、雑踏の中に消えて行った―という粗筋である。

 「巨匠」については「面白かった」という反応が幾つか寄せられた。「盲導犬」に関しては、当時の「全理連」紙編集担当職員を通じて、何名かの方から電話で感想を頂戴した。どなた様も大変愛犬家のようで、犬を育てた人を思いやりながら、中には涙声で話す方もおられた。

 これらのコラムはお読みになったからといって、ことさら業務の向上に役立つとは思えぬが、少なくとも次号も期待するかのような手応えは確かだった。

 また平成元年四月号の「理容展望」に、「人がなりたい職業をめざして」のタイトルで、三ページにわたって私事を取り上げられた際には、その後約一ヶ月間で、二五〇余名様もの方々から郵便その他で感想が寄せられた。その内容の一部はその年の六月一日付全理連紙の当コラムに「反響」として載せさせていただいた。

 そこで、マーク・トゥエンの「考えは人に話してみて、初めて花が咲き、実を結ぶものだ」という言葉に励まされて、恐る恐るの提案だが、今後、こうした肩の凝らない内容のものを「理楽TIMES」においては中央講師の方々に、各組合広報紙ならばそれぞれの講師陣に書いていただき、掲載して行くというのはいかがであろうか。きっと多彩な文章が載ることにより、読者の興味を引くのは間違いないと思うのだが。

 ただ以上の提案は、あくまで組合員の方々に一人でも多く広報紙を手にしていただくための一方法であって、決してこれがベストというわけではない。だが、必ず言えることは冒頭の「サンヒク」効果で、われわれ広報紙が「読んで楽しめる、目を止めたくなる」ための一助であろうということである。

 全理連広報誌「理容展望」が今年の四月号から「HITOIKI」(ひといき)とタイトルを変え、全面リニューアルされた。対象も組合員向けの内容から、顧客を対象とした情報誌に転換した。同じく全理連紙も、「理楽TIMES」に変わり、内容も「理容展望・全理連」誌と紙の合わせたものに変って、それぞれが顧客向け、組合員向けと焦点を絞り、その方向性を打ち出している。

 また、平成一九年三月一日付全理連紙に掲載された「平成一九年度・全理連予算案の概要」には「厳しい経済状況を考慮し、功利的運用を行う事で極力経費の節減をはかりつつも、業界PR等の重大事業の縮小は避けた」と、広報活動には今後も重点を置くという心強い記事がある。組合員が「理楽TIMES」に大きな関心を持ち、かつての貴重な情報を活かして、各店の繁栄と業界発展のため役立っていければというのが、このテーマ最大の狙いである。

 

四、終わりに

 われわれ全理連組合員は、減少したとはいえ全国で八万五千名近くはおられる。

 平成一八年度、全理連上層部が大幅に変った。新執行部は理容業の活性化を図るべく基本理念として、①理容店営業支援事業②理容師育成事業③社会参加事業の充実を掲げた。大森新理事長はこの三事業達成に向け、やる気・勇気・元気の「三つの気」をスローガンに挙げ、役・職員一同はその実現を目指すべく大奮闘中と、広報紙にあった。

 われわれ組合員は、「理楽TIMES」などによって全理連の指針や業界の流れをいち早く把握し、それによって今後の経営のありかたを模索したい。そしてその基になりカギになるのが、広報活動だと信じている。

 以上のことから、読まれる広報紙、読者に興味を抱かせ、待たれる紙面づくりが、結果的に個々組合員の繁栄、全理連組織の強化・発展へとつながることを確信し、拙論の終わりとしたい。 了

 

審査講評
医療・福祉ジャーナリスト 尾﨑 雄

 原氏「サービス業としての理容業」は「新しい経営改革を求められる」時代には「単独店での対抗策は限界があり、同じ考えの同業者、また組織による・組合による対抗が必要」としている。それには「個体(個店)から共同体へ」「業界から業態へ」という戦略を全理連組合員が共有することが欠かせない。そのための情報共有の大切さを強調したのが、この論文だ。「共同体」として理容業界が生き残らなければならないとしたら広報活動がその成否を決めるからである。筆者は、そのための技術論を分かりやすく面白く説いている。例えば出版物は「目を引く、気を引く、興味を引く」の「サンヒク」を念頭に編集・印刷・陳列しなければならないという。

 もともと理容業は町の話題が集まる地域の情報センターであり、理容師は情報マンだった。全理連の広報メディアも組合員の関心を引き、「共同体」の一員として周知すべき、あるいは知っておかねばならない情報を「これは毎回読みたい」と関心を持って読んでもらえるよう工夫を凝らすようにと、筆者は提言する。そのために引用した文例が面白い。こうした「サンヒク」努力は、全理連や支部の機関誌・紙の作り方に限らず個店経営の活性化にも通じるだけに、優秀作に選ばれた。

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