「理容2019メッセージ全国大会」優勝作品

AI時代だからこそ母の想いと共に

九州協議会代表 (佐賀県)   山田 知恵子

「知恵子、床屋は間口だからね」。
 享年47才。
 理容師だった母が生前よく語っていた言葉です。
 床屋・・・いわゆる理容業を生業にしているのに、それが間口とはどういうことなのだろう・・・。
 髪を切るだけではなく、顔を剃るだけではなく、そのずっと奥にあるもの・・・。
 そこにある理容師・理容業という母の心が示す本当の意味がわかったのは、母が他界した後でした。
 近年、めざましいスピードで発達していく人工知能・AI。それを搭載したたくさんのロボットも開発され実用化されています。このような世の中に向けて、どんなことを学ぶのかを考えるのは本当にむずかしいことです。
 そんな中大切なのは、理容師という仕事を通して何を伝えたいのか、何をしたいのか・・・という事。日々進化をとげる人工知能が出来ない事、人間だからこそ出来ることを考え、探り、実行することは、この先とても大切なことだと言えるのではないでしょうか。
 わたしのお店は女性のお顔そりに力をいれているサロンです。うぶ毛とともに古い角質を優しく取り除くことで得る素肌美は、お客様ご自身が本来持っておられるお肌の美しさを引き出す素晴らしい仕事だと誇りを持っており、その施術にあたっては 母の手の感触、ぬくもり・・・そこから伝わる言葉では表現できないほどの安堵感、私の原点はそこにあります。
 お客様からは、ここに来ると心がホッとする、気持ちが落ちつくしまた元気になれる・・・と、そう言っていただけます。そう言ってもらえるのも、母亡き後、わたしは母により生かされ、母と共に生き、そして母をこの世に生かしていたいと、そんな想いで日々お客様との会話の中に交わした言葉を拾い集めお伝えしています。
 どんなに時代が便利になろうとも、変わらない普遍のモノ・コトは確かに存在し、大切なそれらを受け入れ拓けるのが理容師なのだと母。
 理容師・・・理容師の「理」はことわりと読みます。変わらない法則という意味であり、「容」はそれを受け入れる器・・・自分自身。「師」はそれを伝えるお役目・・・使命という意味。そう感じる理容師という音の響き・・・。
 人工知能にわたし達が対応できること、それはおそらくほっこりとした温かさや、人に喜ばれたいというたおやかさに満ちた豊かな意欲。昭和、平成、令和と歴史は流れ、便利になったからこそ、より物より心の豊かさを求める時代にもなり、身だしなみを整えるという理容師の仕事の中に ふんわりと心を添えること、心を寄せることでお客様のお気持ちが和み癒され生きる活力となる、そしてまたわたし達もその恩恵にあずかる、それはなぜなら幸せを感じるエネルギーは、想いをかける双方によってより強く生み出されるものだと思うからです。
 〈心の安らぎこそ真の幸福である〉。
 両親が店に掲げていたこの言葉を胸に、業界の仲間達と切磋琢磨し、あなたに出会えてよかった・・・このサロンに来て良かった・・・と、お客様との心のつながり信頼関係を大切に、胸の中の母とともに生涯現役で頑張っていきたいとおもっています。